「働き方改革」が国を滅ぼす――企業成長に停滞懸念、病院すらも“診療お断り”?

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病院に断られる…

 国の発展を阻害する働き方改革だが、実は、国民の命さえも奪いかねない。

 というのも、厚労省の検討会は3月28日、2024年4月から勤務医の残業上限も、一般労働者並みの年960時間にするという方針を決めたのだ。もっとも、地域医療を担う勤務医や、集中して技能を向上させる必要がある研修医にかぎって、しばらく上限を年1860時間にするというが、ともあれ、

「ほとんどの勤務医の残業時間は、年960時間を優に超えているはずです。昨今の医師不足のまま、医師の労働時間を大幅に削減しろということは、単純に診療時間の短縮につながるほかありません。急患や、病院の少ない地方の患者さんは、病院から“うちは今月はもう診ることができません”と、断られることにさえなりかねません」

 と、首都圏のとある病院に勤務する内科医は危惧する。だが、別の病院に勤めるベテランの内科医によれば、すでに危機は始まっているという。

「うちの病院にかぎらず、どこも同じだと思いますが、若い医師たちは土日はまず出勤せず、当直明けも休みます。でも現実には、そうしていたら、入院患者を継続して診療することなど不可能なのですが、若い医師を休ませるのがいま至上命令である以上、出勤を促すことなど、まずできません。ですから、休日や夜遅くに容体が急変したりすると、以前にくらべて厄介だというのが現状です」

 働き方改革のおかげで、日本人はいよいよ、病気にもなれない状況に追い込まれようとしているのだ。内科医である秋津医院の秋津壽男院長が言う。

「患者が減るわけではないのに、医師の残業時間に上限を設けるのは、まったくの見当違いです。残業をなくせば診療時間が減り、患者の生命に関わります。現実には、患者の命を預かっている医師が仕事を減らすことは不可能でしょう。ただ、いままではタイムカードで勤務時間を正確に把握できていたのが、今後、罰則を受けないためにタイムカードを早めに押すことになれば、把握しにくくなってしまいます」

 秋津院長によれば、アメリカなどでは手術中に「これからゴルフ」と帰る医師もいるそうだが、そんな医療現場を、いったいだれが望んでいるというのか。

 折しも安倍総理は、新元号「令和」への思いを語る談話で、「いかに時代が移ろうとも、日本には決して色あせることのない価値がある」と述べた。額に汗して働くことを尊ぶ勤労感謝の精神もまた、長く日本人の美徳の一つであったはずだが、同じ総理の肝煎りである働き方改革によって、その精神や価値が破壊されようとしているのは、なんという皮肉であろう。

 働き方改革を通じて、日本人はいま、総じて、イソップ寓話の「アリとキリギリス」におけるキリギリスになろうとしているかのようである。しかし、キリギリスの末路については、あらためて本を開いてみるまでもないだろう。

週刊新潮 2019年4月11日号掲載

特集「数字だけが独り歩きする残業減に意味はあるか!? 『働き方改革』が国を滅ぼす」より

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