「ゴーン無罪」の理由~古巣批判の元特捜検事「郷原信郎」vs.会計士界のレジェンド「細野祐二」2万字対談

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【ゴーン氏「4回目の逮捕」を受けて】

郷原 ということで、細野さんとの対談は一旦終わっていたんですが、その直後の4月4日に、特捜部がゴーン氏の「4回目の逮捕」に踏み切りました。これには、また、驚かされましたね。

細野 本当に、ここまでやるとはね。しかし、それだけ、検察が追い込まれているということですよ。これまで郷原先生や私が、徹底して、検察捜査を批判してきた。それが効いているということですよ。特捜としては、世の中はゴーンさんが強欲で悪党だと思い込んで、刑事裁判の方も、有罪間違いなしという雰囲気に持っていきたかった。でも、それが全くそうではなくて、海外からも厳しい批判を浴びてしまった。有価証券報告書の虚偽記載なんか全然犯罪にならない、サウジアラビアの話なんか立証できない、ということが分かっているんで、このままいくと検察にとって大変なことになる、何とかして、ゴーンを踏みつぶさないといけない、ということで焦って、また、ひどい事件で逮捕してきた。

郷原 今回の逮捕容疑の特別背任は、オマーンの販売代理店に日産から支出させた資金の一部をゴーン氏が私的に流用した、それがゴーン氏による「会社の私物化」だということのようです。これどう見ますか。

細野 全然ダメだと思います。特別背任になどなるわけありません。

郷原 オマーンの販売代理店に日産が支払ったお金に合理性があるのかということが問題なんですね。

細野 そうです。それがすべてです。中東日産からオマーンの代理店に流れたという1500万ドル(約16億6700万円)は、その支払いに合理性があれば、代理店の方でそのお金をどう使おうが自由です。代理店からゴーンさんの実質支配する口座に500万ドル(約5億5500万円)が流れたとしても、代理店が正当に受け取ったお金で、そこからの支払いを正当に会計処理していれば何の問題もありません。ところが、その販売代理店側が検察には協力していないというじゃありませんか。こんなものは、販売代理店のスヘイル・バウアン氏の話を聞いてみなければどうしようもありません。

郷原 ゴーン氏側は、オマーンの販売代理店に支払ったのは、正当な販売奨励金だと主張しているようですが。ゴーン氏の逮捕以降、「金に汚い」などとボロクソにこき下ろしていた自動車ジャーナリストの井上久男氏の記事によると、オマーンでの日産の自動車の売上は年間540億円程度、販売代理店への支払が年間5億円程度です。この金額は、販売奨励金の金額としてどうですか。

細野 売上の1%の販売奨励金なんて全く普通の金額ですね。販売奨励金としてどの程度の金額が相当かというのは、その国や地域の実情によって違います。中東での自動車の販売というのは、日本のようにキャンペーンやったり、チラシを配ったりしてチマチマやるのではなくて、有力者のところにまとめてお金を落とすというやり方です。大手マスコミはこの支払いが例のCEOリザーブからなされたことをもって不正の温床だなどと断罪していますが、CEOリザーブはアラブに対する金の落とし方としてむしろ機動性に優れていたとも言えるのです。その程度の金額は全くおかしくありません。また、なにか、検察は、代理店からゴーンさんの実質支配する口座に500万ドルが流れたことを鬼の首でも取ったような言い方をして、だからということで、「日産に500万ドルの損失が出たのは明らかだ」などと言うのですが、ゴーンさんの実質支配する口座に500万ドルが還流したからと言って、それだけでは日産に500万ドルの損失が発生したことにはなりません。この取引は代理店とゴーンさんの実質支配会社との間の資金移動に過ぎないからで、販売代理店のほうではこの500万ドルを貸付金として会計処理しているはずです。会計上、これを資金取引と言いますが、そもそも会計では、損益認識のない取引のことを資金取引といいます。オマーン・ルートが特別背任になるためには、この取引は資金取引ではなく損益取引でなければならず、会計上の損益取引であるためには、スヘイル・バウアン氏が、「500万ドルはゴーンさんに対するバックリベートなので、これを返してもらうつもりなど毛頭なかった」、「これを貸付金と会計処理したのは会計監査をごまかすためだった」、「そもそも中東日産からもらった販売奨励金の1500万ドル自体がインチキで、これはもともと1000万ドルの販売奨励金にゴーンさんに対する裏リベート500万ドルを、ゴーンさんと秘密裏に共謀して上乗せした金額だった」ということを自白していないといけません。

郷原 経営者についての特別背任のハードルは非常に高いんです。三越事件東京高裁判決では、社長の愛人が経営する会社への支払いが、三越にとって有用であったことが否定できないとされ、一部無罪になりました。ゴーン氏についても、販売奨励金としての支払いの合理性が否定できなければ、オマーンの販売代理店の支払いについて特別背任罪は成立しません。仮に、販売代理店側から何らかの形でゴーン氏が個人的利益を得ていたとして、経営倫理上の問題はあっても、犯罪の成否とは直接関係ありません。もし、特別背任が成立するとすれば、販売奨励金の支払いに「上乗せ」して、ゴーン氏への還流分のお金を支払うという「合意」が、代理店側とゴーン氏との間にできている場合ですが、販売代理店側は検察の捜査に協力していないようですし、マスコミ報道でも、そのような「合意」の証拠があるという話は全く出てきていません。ところが、マスコミは、「販売代理店からゴーン氏に還流」とか「流用」などと勝手に決めつけているんです。ゴーン氏の4回目の逮捕後の報道は、本当にひどいと思います。 

週刊新潮WEB取材班

2019年4月11日掲載

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