「ゴーン無罪」の理由~古巣批判の元特捜検事「郷原信郎」vs.会計士界のレジェンド「細野祐二」2万字対談

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「こんなカネに汚かったんだ」…

郷原 具体的にどんな罪証隠滅の可能性があるのかと一つ一つ詰めていけば。そういうものはほとんどないんです。日産なんて、ゴーン氏、ケリー氏には絶対接触するなって厳重に通達出してるわけでしょ。そこにちょっと触れたら通報されてすぐ保釈取り消しになるじゃないですか。そんなリスクなんか冒すわけもない。あとはその中東のジュファリ氏。検察も調べられてないのに、罪証隠滅も何もないって話ですよ。そんなんだったら証拠もないのに起訴して、これから検察が証拠を収集するんだと、それを邪魔するのが罪証隠滅だと言ってるようなもんでしょ。そんなのもうあり得ないですよ。

細野 朝日新聞がジュファリに会いたいってサウジアラビア行ったそうです。会えなかったそうですよ。もう鼻も引っ掛けられなかったって。

郷原 まあそれはそうでしょうね。ゴーン氏の保釈は全然おかしなことじゃないんですよ。あれを国際的な海外からの批判に屈しただとか、裁判所がねじ曲げただとか、そんなのは全然そうじゃないんですよ。もともとがねじ曲がってるんです、人質司法のほうに。ただ、特捜部が本当に組織を挙げてやって、メンツ懸けてやってる事件で、全面否認のまま裁判所が保釈許可を出したというのは確かに画期的ではある。

細野 こんな人質司法が幅を利かせているのは、ロッキード事件以降じゃないですか。だって田中角栄なんか起訴されてその翌日に出てるんですよ。保釈で。

郷原 そうですよね、全面否認でも。

細野 ロッキード事件の栄光が尾を引いているのです。あれをやったっていうんで、特捜部の言っていることは絶対正義だっていうのを、もう全国民、裁判所も含めて、絶対的に信じるようになった。

郷原 メディアもとにかく「検察は絶対正義」にしましたからね。だから長期間の身柄拘束も「正義のため」ということで何も問題にしないんですよ。私が感じるのは、検察が最近さらにひどくなっているということです。昔以上に人質司法に頼ってます。

 特捜部には昔は二つの手段があった。ほとんど恫喝に近いような取り調べで調書を取ること、これが一つ。で、それでも自白しないやつは身柄拘束を続けて自白に追い込む、この二つの手段。

 ところが、取り調べの方が駄目になったんですよ。大阪地検の不祥事をきっかけに批判されて、取り調べの可視化もあって使えなくなってきた。そこで、もう一つの手段の方が使われるんです。そのやり方は、自白させるっていうことじゃなくて裁判で無罪主張をさせなくするというやり方なんです。自白調書なんか取らなくてもいい。とにかく争わない。弁護人側から書面を出させて、裁判で無罪を主張しないっていうことを確約したら出してやる。要するに有罪無罪を争う裁判を受けさせないっていうことです。ろくな証拠が取れないから、裁判ができない。裁判の回避なんです、このごろ検察がやってることは。本当にひどいんです。

 今回も、サウジアラビアルートの事件に関して、特別背任を犯罪として立証できるレベルが10だとすると、現状は恐らく2、3程度だと思います。そんな程度でも起訴して証拠が足りないから、罪証隠滅の恐れがあるって言って、それで100日でも、200日でも、300日でも身柄を拘束しておこうというのが検察のたくらみだったわけです。それが裁判所が比較的早く保釈を認めたので残念ながらそうはならなかった。

 公判はどういう展開になるのかということについて、この事件は二つ、これまでお話ししてきた金商法(金融商品取引法)の事件と特別背任の事件とがあって、間違いなく言えることは、この金商法違反、有価証券報告書の虚偽記載は、私は無罪になる可能性が高いと思います。これは検察がいくら抵抗しても、あまりに単純だし、客観的に明らかだし、これをそんなに長期化させるってことはなかなかないと思います。

 しかもケリー氏は、アメリカから、日産側がどうしても出てもらわないといけない会議があると言って、手術する予定があるのにだまして飛行機に乗せて、それで空港に着いた途端、特捜部がやってきて逮捕したということですから。そんなことまでして無理やり日本に留め置いてる人間を、そんなに長く日本に留め置くことはできない。比較的早期に判決になるんじゃないか。このケリー氏の判決で、金商法違反についてゴーン氏の判決も予測できることになる。無罪ということになると……。

細野 無罪になったらもう特捜部なくなりますね。

郷原 これはかなり大きな出来事になるんじゃないかと見てるんですね。一方で、背任のほうは、恐らく検察が必死になって引き延ばしにかかりますから、いろいろな立証をしようとしてきて。今の幹部が辞めていなくなるまで引き延ばして、10年でもやりたい。そのぐらい長期化を図りますよ。

 ただ、残念ながら今回はケリー氏の判決が先に出るんで、そんなことが許されなくなるんじゃないかと思います。そこで日本の刑事司法が、特捜の在り方が変わる、ということになればいいんですけどね。

細野 僕はあんまり楽観してないんです。裁判官の立場になってみると、「虚偽記載について、ゴーンさんはこんな計画をしていました、こんなことも言っていました」みたいな調書が山のようにあるわけじゃないですか。特別背任も、「裏でこんなことを言っていたんですよ、こうだったんです」って膨大な調書が出るわけですよね。そして、裁判所はその調書を証拠採用するわけじゃないですか。裁判官が、それだけの膨大な証拠を全て否定して「無罪です」というのはもう至難の業だと思います。

 これを無罪にするのは、だからやっぱり村木さんのときと同じようなことにならないと駄目だと思う。検察はなんでこんな犯罪でもないようなものをターゲットにしたのか。なんで日産は検察に話を持っていったのか。経済産業省はなぜこの話をこんなことで膨らませちゃったのか。新生銀行は別に証拠金も要らないのに、なぜ日産に付け替えようとしたのか。そういうストーリーを裁判で明らかにして、それで国民世論、今回の場合は海外の世論も激高して、初めて、裁判官は自信をもって無罪判決が書けるということになると思います。ゴーンさんの無罪はいいとして、じゃあ真相はどうだったのか? なぜ無実の人がこんな目に遭わなきゃいけないのか? というのを追及していく。それが社会に明らかになった時、その強い国民世論を背景にして、やっと裁判官は「無罪だ」と書けるのです。

郷原 しかしそのためにはメディアがそういう方向で書かなくちゃいけないわけで。

細野 日本のメディアは、検察のヨイショ報道から脱却しなければならない。

郷原 確かに細野さんが言われるように、単純化していって、法律上、有価証券報告書の虚偽記載に当たるわけないじゃないかというところから入っていけば、裁判はあっという間に終わるんですよ。ところが、そうは持っていかないですね。検察は全く関連性のないものを、さも関連があるかのように……。

細野 「こんなにカネに汚かったんだ」ってね。

特捜事件で無罪が出てるのは唯一…

郷原 あのときはそうです、陸山会事件の(小沢一郎氏の)秘書の裁判ですね。全く政治資金規正法と関係ない「天の声」の見返りの政治献金のことを冒頭陳述に書き、そういうものを次から次から証拠請求するわけですよ。本来は、起訴事実とは関係のない余事記載です。ところがそれを冒頭陳述に書いて立証したいって言ったら、裁判所はそれを認めてしまう。それで、いつの間にか「天の声」や政治献金があったかどうかが争点になって、しかも、社長以下丸ごと検察に「降伏」している西松建設側が、その点の立証で検察に全面的に協力するわけですから、その争点について検察の主張が認められ、その結果、裁判全体で検察の主張が認められてしまう。そういう展開になったのが陸山会事件の小沢氏の秘書3人の事件です。そういうやり方が検察の常套手段なんです。ゴーン氏の事件では、西松建設と同じ立場になるのが日産で、有価証券報告書の虚偽記載とは全然関係ない争点を作られて、裁判所がその立証を認め、日産が検察に全面協力するということになると、陸山会事件の秘書裁判と同じ展開になる可能性もあります。ケリー氏の弁護人の喜田村(洋一)弁護士がそこを整理して、裁判の争点をおかしな方向に持っていかれないように、いかに短期間の審理で終わらせるかが重要ですね。

細野 僕は喜田村さんもよく知っているし、(ゴーン氏を担当する)弘中(惇一郎)先生はよく一緒に仕事をしているので分かりますが、お二人とも「一審で世論に訴えるっていうのが大事だ」ということをよく知っている人達です。有罪・無罪の判決は事実の認定により行われ、事実の認定は裁判官の自由心証に委ねられます。でも裁判官の自由心証は社会性のある経験則と合理的な推論に基づくものでなければなりません。だから、心証について、プロとアマチュアの差はないんです。普通の常識的な人間がこれはおかしいと思うことが合理的心証となります。だから、最高裁は、下級審が出した判決が国民の常識とかけ離れているかどうかを非常に気にしますよね。

 長銀事件では最高裁で逆転無罪になりましたし、日債銀事件も、最高裁が審理を東京高裁に差し戻し、逆転無罪が確定しています。長銀、日債銀の事件で逮捕された役員の方たちの中には、不良債権の後始末のために後から入ってきた人たちもいて、それはあまりにもかわいそうだということを日本のメディアがワーワー言って、国民もそうだそうだ、かわいそうだと、すごいマスコミの盛り上がりでした。最高裁としたら国民の合理的心証と下級審の判決がずれてるんだから、逆転無罪としなければ、日本の裁判制度が国民から支持されなくなってしまいます。

郷原 でも一審、二審は有罪だったし。世の中のそういう見方って、最高裁でやってるときにそんなに大きな力になったかっていったらそれほどでもなくて。私はあの最高裁判決はかなり詳しく検討したんですけど、やっぱり無罪になった大きな要因は、監査法人に対する民事訴訟で粉飾決算に関する判断が次々とひっくり返ったこと、民事事件で最高裁も「粉飾ではない」という判断をしたことが大きかったのだと思います。

細野 まあそれもあったかもしれないけど、基本的には弁護側が駄目だったと思います。だって日債銀事件の下級審では粉飾決算を重要な争点にしていないのですから。最高裁は下級審に差し戻すに際して、わざわざ「粉飾事実を争ってくれ」と言っているんですよ。粉飾かどうかを決めるのは会計基準だから、その当時の会計基準でどうだったのかと。その会計基準で見たときに、日債銀の貸付金はどうだったかっていうのをもう少し審議しないと駄目なんだということで差し戻したじゃありませんか。弁護士はみんなそうだけど、特捜が粉飾って言ってるものに対して粉飾事実で争うなんてことはやりたがりません。それで、「犯意がなかったんだ」と、故意を争点にするんですよ。故意ばっかり。

郷原 検察の得意の領域にはまっちゃうんですよ、そうすると。

細野 故意で争っちゃったら、向こうは供述調書を思いっきり取っているんだから、絶対勝てない。日本の弁護士はそこが分からないと駄目です。村木事件をはじめとして、特捜事件で無罪が出てるのは唯一、犯罪事実を争点にしたときだけなんです。

郷原 そうですね。それは間違いないですね。

細野 故意かどうかで争って無罪はあり得ない。ただ、今回の喜田村さんは、粉飾事実と故意の両方とも争います。勝ち目は十分あるんだよね。

郷原 さっきの話にちょっと戻すと、検察の常套手段として、関連性のないことを山ほど立証しようとするというやり方がある。

細野 被告人が悪い人だっていう印象を作っていくわけですね。

郷原 今回の金商法については、場面が限定されてるんです。退任後に受け取る報酬額を記載した「覚書」を隠したとされていますが、この覚書作成に関与していたのは司法取引に応じたという秘書室長と、ゴーン氏、ケリー氏と、それと西川氏、限られた人しかいない。なのに、その背景とか言って、日産における役員報酬の決め方や、、ゴーン氏の役員報酬の隠蔽の動機というようなことを争点にし始めたら、審理の対象が不当に拡大してしまう。

細野 まあそうだけど、検察は虚偽記載のほうについては専門家証人を出すでしょう。専門家を呼んできて、「うん、これはやっぱり虚偽記載です」と証言させるのです。

郷原 (事実関係についての証人ではなく)専門家証人ですね。

細野 いくらでも出すでしょう。

郷原 しかし専門家は5人も6人も立てたってしょうがないですよ。

細野 もちろん(日産の監査を担当した)新日本監査法人もそうやって証言するんだよ。

郷原 今度は監査法人。

細野 だって新日本監査法人はそうやって証言しないともうつぶれちゃいます。それから学者も呼びますよ。そのとおりに証言する学者はいくらでもいる。

郷原 そういうところまで広げ始めると簡単には裁判が終わらなくなるかもしれないですね。

細野 だから検察は「勝てる」と思ってる。それに抗するには国民世論が大事だと思うんですよね。

郷原 しかし、今回の事件でのメディアの報道に期待するのは難しいですよ。

細野 そうです。日本のメディアは全然駄目。

郷原 私は細野さんみたいに英語ができるわけじゃないけども、今回のゴーン氏の事件では、BBCとか、フランスの公共放送とか、AFPなどの海外メディアが通訳連れてインタビューに来てくれて、日本の刑事司法の構造的な問題なども詳しく話しました。

細野 そうでしょう。僕のところにも来るんだけれど、やっぱり自分で書かなきゃ駄目。

郷原 確かに、自分自身で書いて発信することが重要ですね。この12月から1月にかけては自分のブログの記事を自費で英訳をして、英訳したブログ記事を海外メディアに送ったんです。検察が国際的な批判にさらされている今回の事件こそ刑事司法が変わるチャンスだと思ったんで。

細野 それしかないですよ。まあほっとけば有罪だと思いますね。司法ムラですから。日本の裁判所は、「特捜検察があるから日本の司法はもっているんだ」ぐらいのことを思ってますから。

郷原 確かにそういうふうに思ってる裁判官が圧倒的に多かったし、思ってなくても特捜に歯向かえない。検察が組織を挙げて有罪立証をしてきて、徹底して攻めてきているんで、裁判所も逆らえなかった。

細野 そうですよ。判決書くのはたかだか3人です。

郷原 3人ですから。本当に細野さんの事件のときに私そう思いましたね。これだけ無罪が明白なのに、こんなひどい事件があるかと思って。高裁の、控訴審の3人の裁判官は体調まで崩して、結局、無罪判決が書けなかった。これが端的な例ですよ。それが現実だった。しかし、裁判所は今回……。

細野 海外があるから。

郷原 そうですね。それがある。それと、裁判所は幾つかまっとうな判断を見せたじゃないですか、今回。勾留延長請求却下と保釈。

細野 いまだかつてないことですね。

郷原 裁判所の争点の整理の仕方、証拠の採否、それがこれからどうなるのか、注目ですね。

細野 そうですね。僕は、何とか自分が生きてる間にこの人質司法を正して、次の世代にはもうちょっとマシな経済司法を残していきたい。

郷原 私は、検察に関わった者の一人として、今までのように特捜検察によって人生を踏みにじられる人が出ないように、特捜の在り方、特捜事件の刑事裁判の在り方を少しでも変えること、そのために最大限の努力をしようと思っています。それが自分の使命だと思ってますから、これからも闘い続けます。

細野 ちょっと頑張らんとあかんですよね、本当に。期待しています。

社会的差別がなくなった10年

――最後に、5月に出版される『会計と犯罪』について。

細野 この本は、郵便不正事件とのかかわりの中で、私がどのようにして犯罪会計学研究に至ったのかという10年間の仕事の歩みを手記にしたものです。今回、日産ゴーン事件が起きましたので、この事件の分析もこの本の中で記述しています。

 私は、2010年5月の最高裁有罪判決以降現在までの9年間、有罪判決を受けた元刑事被告人というハンディキャップを何ら感じることなく仕事ができました。それ以前はそうではなかったのです。メディアは私の論稿を私の名前で載せることを躊躇したし、クライアントの仕事で私が出ていくと銀行は激しく警戒しました。やむなく、私は、自分の分析を友人のジャーナリストに書いてもらったり、知人の国会議員に国会で質問してもらったりしていました。クライアントのための銀行交渉も弁護士を通じてやらざるを得なかったのです。
 
 このことは私の事務所を訪れる元刑事被告人のクライアントも同様で、彼らの事業活動は2010年を境として明らかに活発化しています。郵便不正事件、厚労省虚偽公文書事件、大阪地検特捜部証拠改ざん事件の3連発のおかげだと思います。郵便不正三事件のおかげで特捜検察の冤罪構造が満天下に明らかになり、その結果、特捜事件の元刑事被告人に対する社会的差別が著しく緩和されたのです。

 僕は、最高裁判決により公認会計士資格を剥奪されましたが、その後の9年間の方が本来の公認会計士らしい仕事をすることができました。公認会計士をクビになって本当の公認会計士になれたように思いますが、それは2010年の郵便不正3事件に負うところが大きいのです。振り向けばそこにはいつも郵便不正事件があったのです。

 郵便不正事件で無罪判決を勝ち取った村木厚子さんは、「自分が無罪を取れたのは運がよかったから」 と言います。僕もそう思う。しかし、この発言は、村木厚子さんに無罪判決が出ているから言えることで、無罪判決を取れなかった私が、「自分が有罪となったのは運が悪かったから」と言うわけにはいきません。 

 村木厚子さんに無罪判決が出て私に無罪判決が出なかったのは、運以外に、何か説明可能な必然がなければならない。この本はその謎解きの物語なのです。そして、その謎解きによる研究成果が犯罪会計学になり、現在の私があるのです。この本は、本来、会計と司法に関する重厚な本として書いたのですが、出来上がったものは、地獄の底から這いあがる涙と希望の人間ドラマとなって、エンターテインメントとしても読める面白い本になりました。

郷原 普通に考えたらですよ、不正があるんだったら日産の取締役会で、「こんな明白な不正がある」って言えばいいじゃないですか。それで解任決議を出せばいいじゃないですか。それをやらないことって普通はあり得ないと思う。

 ところが、全然そういう問題にいかないですよね。なぜかって言ったら、検察が逮捕したんだからこれは悪党なんだ、犯罪者なんだと。結局またそこに返っちゃってるんじゃないの。検察が逮捕した人は、いつも犯罪者ですか? いつも悪人ですか? 村木さんがあるじゃないのという話になぜいかないのか。結局また戻っちゃってる。

細野 それが一番楽ですから、国民にとってみると。だってこんな検察の改革は大変なことですよ。それよりも、まああれは大阪の話だから、あの大坪さん(弘道・元大阪地検特捜部長)って目つき悪いし……、ということにしたほうが世の中みんな幸せじゃないのって話なんだと思いますよ。

郷原 細野さんが言及した「変わった」部分と、やっぱり「変わってない」部分とがあるんですね。

細野 もちろん。ただ、僕に対する社会の側の反応はずいぶん変わりました。僕はすごく発信するから。それからもう一つは、僕は経済で生きている人間だから。うちのクライアントにしても、僕のところへ特捜事件の被告人の方がよく来るんですよ。半分以上そうですよね。で、そういう人たちはいろんな事業家で、別に逮捕されてもどうってことないみたいなことを思っている人もいるけれど、やっぱり2010年以降は経済活動にハンディキャップがなくなっているんです。昔みたいに、「いや、自分は特捜に1回やられてる人間ですから隠れて生きてる」みたいなこと言ってると、世間も「そうだな」となるんだけれど、発信すれば、みんな大阪の事件を思い出して、こっちの方を向いてくれる。その人次第だと思います。

郷原 私も10年前から何かにつけて、検察批判を孤軍奮闘でやってきました。よく「怖くないね」「逮捕される恐れがあるんじゃないか」って言われたんですけど、やっぱりずっと発信し続けてるから、さすがにそうやっていると手を出せないということはあるんだなと思うんですね。

細野 と思いますね。

郷原 でも、その代わり多分、検察や特捜の幹部からは恨み骨髄だと思うんですよ、さすがに。今回は特に世論形成に相当影響を与えたんで、「このやろう!」と思ってるはずです。

細野 それは僕も同じです。検察は一度逮捕しているわけですから、「もう一度やってやろうか」となるんだけれど、僕がものすごい発信してますから、それが自分の身を守りますよね。だからそんな話も今回の本に盛り込んである。面白いですよ。

 それと僕は書いていて自分でも何回も泣いた。もうあの逮捕とか、あのときのことは考えないようにしていましたからね。

郷原 思い出しますよねえ。

細野 特捜事件で有罪が確定して、そんな人間が会計界のレジェンドとか言われて『JBpress』で日産ゴーンの特別背任について書いて16万ヒットが来る。わずか1日で。だから今回はチャンスなんだよね。

郷原 今回は本当にゴーン批判のおびただしい記事の一方で、そうじゃない、検察捜査にこういう問題があるっていう方向で記事を出すとやっぱり注目されました。私が出した記事も、それまでとはビュー数が1桁違いました。

細野 だってこんな話、大手メディアに全くないですから。

郷原 全然ないですね。

細野 大手メディア見たら、ゴーンが悪くてどうのこうのばっかり。

郷原 強欲、独裁者、私物化。

細野 ひどい。だまされたとか、そんなことと犯罪は関係ない。

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