鬼畜親の虐待事件、原因は「親の劣化」――家庭のしつけを法規制の愚

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家庭のしつけを法規制という暗愚(1/2)

 西洋社会に計り知れない影響を及ぼした古代ローマの格言に〈法は家庭に入らず〉がある。家族間の揉め事は家庭のなかで解決するものであり、みだりに国や行政が介入すべきではないということだ。

 この法諺が紀元前から連綿と語り継がれてきたのは、人々がそこに時代を超越した真理を見出してきたからに他ならない。

 だが、21世紀を迎えた我が国では、古代ローマ人の戒めに逆らって「法を家庭に」入れようとしている。果たして、これを時代の変化のひと言で片づけてよいのだろうか――。

 3月19日、政府は、児童虐待防止法と児童福祉法の改正案を衆院に提出した。法案の要点は、「親による体罰の禁止」と「児童相談所の機能強化」だ。

 この法案は、今国会での早期成立を経て2020年4月にも施行される公算が高い。現行の児童虐待防止法では、違反者に懲役1年以下の罰則が科されるが、与党内からは更なる厳罰化を求める声も上がっている。

 読売新聞が3月に実施した世論調査でも、「親から子供への体罰を法律で禁止すること」について「賛成」が59%を占めた。「反対」と答えた24%の2倍以上にのぼる数字である。

 無論、法改正を決定づけた二つの虐待死事件を振り返れば、生き地獄と化した「家庭」から、一刻も早く子どもたちを救い出してあげたいと考えるのは当然かもしれない。

 たとえば、昨年3月に東京・目黒区の船戸結愛ちゃん(享年5)が、義父からの執拗な暴行を受けた末に命を落とした事件。幼女が綴ったメモをご記憶の方も多いはずだ。

〈もうパパとママにいわれなくても しっかりとじぶんから きょうよりか もっともっとあしたは できるようにするから もうおねがいゆるして〉

 一読して、これほど胸を締め付けられる文面もなかろう。だが、このメモ書きを目にした義父は、覚えたてのひらがなで必死に許しを請う娘の顔面を容赦なく殴り、早朝4時の起床を強要。クリスマスには自分たちだけ外食に出かけ、娘をひとり寒空のなか家の外に放置し、食事も満足に与えず死に至らしめた。

 同様に、今年1月に亡くなった千葉県野田市の栗原心愛さん(享年10)も、実父からの激しい暴力に晒されてきた。父親によって一時保護先の児童相談所から連れ戻された心愛さんは、その後、直立不動のまま冷水のシャワーを浴びせられ、息を引き取っている。

 もはや「親」と呼ぶことさえ憚られる鬼畜の所業は、虐待どころか拷問であり、なぶり殺しに等しい。

 被害女児がいずれも名前に「愛」の一文字を授けられていることも悲哀を誘う。驚くべきは、どちらの事件でも父親は自らの凶行を「しつけの一環」と供述したことだ。陰惨な事件の記憶が生々しく残るいま、家庭内でのしつけを「法」によって縛る他ないという意見が大勢を占めるのは頷けなくもない話だろう。

 とはいえ、教育現場で教師が拳をふり上げて生徒を叱れなくなって久しいなか、親すら我が子に鉄拳制裁できなくなるとは……。そもそも、こんな悲惨な事件が繰り返される最大の原因はどこにあるのか。

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