「田舎暮らし」の孤独に耐えられない移住者 全共闘世代が誘い込む市民運動の罠

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「友人ゼロ」が珍しくない移住者

 春の八ヶ岳南麓は、別荘の建設ラッシュを迎える。80年代半ばのバブルを彷彿とさせる光景だという。

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 この地では、土地探しから新築、リフォームに物件購入に至るまで、移住を希望する都会人には、相場の数倍にも達する価格が吹っかけられる。いわゆる“ぼったくりバー”と変わらない。地元民が見積書をチェックすれば、「この請求額は、全く根拠がない」と見抜けるものばかりだ。

 しかし都会で成功した歯科医やクリニックのオーナーである彼らは、相見積もりなど時間の無駄らしい。「所詮は経費で落とせる」とばかりに一発OK。「やっぱり、都会から来る奴らはカネがあるな」と、ますます見積もりと称した“吹っかけ価格”が横行していくようだ。

 結果、「都会の奴らからは、いくらでも取れるじゃんな」などという“景気のいい話”が、地元業者らの間に心地よく蔓延し、浸透していく。だが、そこに犠牲者は生まれない。ボッタくられている都会人は、確かにカネには困っていなさそうだからだ。

 移住して来る都会人がカネで苦しめられることはない。むしろ、カネでは解決できない「孤独」で苦しめられる。田舎暮らしに憧れながら、田舎暮らしができない都会人の悲しい性――。

 彼らを狙っているのは、「市民活動」という名の左翼活動である。「転向」後に富裕層へと転じ、人生を謳歌してきた“全共闘世代”に“基地闘争世代”、“三里塚管制塔戦士”など元闘士たちが、田舎暮らしの地には溢れている。

 若い頃、手練手管の限りを尽くす“オルグ”を身につけた元闘士らが、手ぐすねを引いて「趣味サークル」、「お茶会」などの名のもとに、罠よろしく移住者を待ち伏せる。その末の政治闘争が、田舎暮らしの地を政治闘争に追い込んでいる。

「引退後の生活は田舎でゆっくり農作業でもしながら……」そんな夢をさんざん不動産業者に語っていた移住者の――八ヶ岳南麓に点在する――住宅や別荘のテラスを覗いてみるといい。

 立派なウッドデッキに、地元ホームセンターで新調されたテーブルが置かれながら、夫婦でゆったりとカップ片手にお茶やコーヒーをすすっている姿などまずお目にかかれない。

 大手商社に勤め、関連会社への出向を経たのち、4年前に晴れて完全リタイアとなった72歳の加藤さんも八ヶ岳南麓に移住した。現在、自宅近くのホームセンターで木材売り場の担当としてパート勤めをしている。理由は「暇だから」だ。

「こっちへ来て、ようやくゆっくりできると思ったけれど、長年、働き詰めだったせいか、何もしない時間というのに堪えられないのだとわかりました。何かをやっていないと落ち着かない。畑をやってもみましたけど、結局、冬場は暇だし。畑だって、やってわかったことは、収穫を目指すのは相当大変だっていうことくらい。どうしても、何かやらざるをえないんですよね。時間を持て余しちゃって」

 もちろん、働ける間に働けるのは素晴らしいことだ。加藤さんの妻もほどなく、パートとして働き出した。憧れの田舎暮らしを実現した加藤さん夫婦だったが、時間が経つと孤立感や孤独感に襲われるようになった。

「地元の人たちは、やっぱり移住者を敬遠しますし、パートの職場では、業務上で必要なこととかは表向き口を利いていても、やっぱり垣根は高いですね。意気投合するのは、どうしても移住者同士ということになります」

 加藤さんは職場で知り合った、やはり移住して来たという年配の男性の自宅に行くようになった。夫婦揃って自宅に招かれたのだ。

「ようやく、ホッと一息つけたというか、移住して初めて友人らしい友人ができた嬉しさもあり、すぐに打ち解けて、ときどき互いの家を行き来する仲になったんです」

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