“透析大国”日本で「腎移植」が進まない事情 識者は「福生病院事件」をどう見たか

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治療再開の意思に病院は応じず…「人工透析」と「尊厳死」(3/3)

 人工透析を中止した福生病院の“事件”は、日本における治療の問題も浮き彫りにさせる。腎臓病予防などの啓発活動を行い、自身も腎臓病患者である石橋由紀子氏は「血液透析患者は病院にとっての定期的な収入源であり、経営の安定につながる存在」と指摘。医療費が抑えられ、患者のQOL(生活の質)の点からも有用と思われる腹膜透析が用いられない背景には、こうした「カネ」の問題も潜むのだ。

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 さらに、血液だろうが腹膜だろうが、そもそも人工透析自体をしないで済めばそれに越したことはない。その手段が腎臓の移植だ。

「現在、日本における腎移植の約9割が生体腎移植で、残る1割が亡くなった方から腎臓の提供を受ける献腎移植です。海外では、この割合が半々になります」

 とした上で、東京女子医大泌尿器科主任教授の田邉一成氏が語る。

「腎移植の技術は確実に進歩していて、腎臓を提供する側、ドナーの手術は2時間前後で終わり、しかも開腹しない腹腔鏡手術です。提供される側のレシピエントの手術も3時間くらいで終わります。入院期間はドナーが3~4日間で、レシピエントは手術前後あわせて約10日間。術後もドナーは日常生活にほとんど支障を来(きた)しません。手術翌日の昼から普通にご飯を食べられるくらいです。レシピエントも、例えば透析患者はカリウムの含有量が多いものを食べると高カリウム血症という危険な状況になるので、バナナなどのカリウムを大量に含有するものは食べることができませんが、腎移植をすればそうした制約はほぼなくなります」

 かつては移植された腎臓による拒絶反応が問題視されたが、現在、移植腎が正常に機能する生着率は100%近く、移植10年後でも約90%だという。加えて、

「医療費も、手術入院代が300万円程度で、それ以降は薬代が月10万~15万円ほど。健康保険の適用疾患ですから、患者の自己負担はほとんどありません」(同)

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