東海テレビ制作ドラマお得意のベタにぐっと引き込まれる「絶対正義」

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 あなたの正義は、私にとっての不寛容であり、息苦しさでもある。正義はこの世にひとつで、広義も狭義もない……と言い切れる人が、どれだけいるだろうか。法律を盾に正義を振りかざし、純白の衣装におかっぱ頭のサイコパス女が暗躍するドラマ「絶対正義」は、異色のリーガルヒロインとも呼べる迫力があった。主演は山口紗弥加。連ドラ主演は昨年の「ブラックスキャンダル」に続いて2作目だ。美貌と不穏の不協和音で、観る者を戦慄させた。

 常に正しさを求め、規則を破ってはいけないと母に教えられてきた山口。喧嘩した後、目の前で母が亡くなったトラウマから「正義より大切なものはない」と悟る。自分を律し、他人も罰す。正義モンスターと化した山口は、同級生たちの人生に異様な執着をもって、執拗に正そうとする。情け容赦なく四角四面で動く山口に、辟易していく同級生たち。やがてその憎しみは殺意に変わり……というサイコホラーでもあった。

 で、山口の正義の鉄槌というか嫌がらせというか、厳格で粘着質な追及に振り回される同級生が4人。片瀬那奈はアメリカ人男性と結婚し、インターナショナルスクールを経営する成功者だ。不妊で悩むも、山口から卵子提供を提案されて、心の底から気味悪がる。守るものが多いセレブならではの葛藤を、白目剥きながら好演。リストラされて腐る夫と、子供の親権争いに発展したのは美村里江。一番臆病で気が弱い役どころだが、美村が恐怖に目をかっぴらく様は楳図かずおの漫画級。得体のしれない怪物を見たときの顔芸、最高。

 フリージャーナリストの桜井ユキは、取材に取材を重ねてようやく書き上げた著書のあら捜しを山口にされ、訴訟を起こされそうになる。元TBSアナウンサーで女優初挑戦の田中みな実は、不倫する女優役。女優としての華はなかったが、息を吸うだけで女性から嫌われる才能を存分に発揮。

 この4人が最終的には結託して、山口を葬るのだが、最終回で衝撃の、と書きたいが、いかんせん放送前に原稿を書いておりまして。

 今期、匿名・不特定多数の歪んだ正義にざわついたのは、日テレの「3年A組」やフジ「QUEEN」があったがピンとこず。言葉の暴力と脅威は恐ろしいが、炎上だの謝罪だのが織りなすドラマは都合よき絵空事エッセンスに感じてしまった。「現代人の殺伐」しか印象が残らず。役者はいいのに。

 で、この「絶対正義」のほうがベタなだけに、ぐっと引き込まれた。(東海テレビのベタが大好物だから)。旧知の仲のコミュニティ内で起こる正義の強要は、罪悪感や痛みを伴い、血の通った人間の姿を描いていた。そっちのほうがドラマチック、と旧人類の自分は思っちゃうの。

 ホラー嫌いを克服したつもりだが、怖かった。おかっぱ頭がいつ自分を律しに来るかと思うと、尿道直撃の失禁レベルで戦慄したよ。

 今期は王道ドラマをほぼ外し、深夜帯やBS、ローカル局に逃げまくった。メッセージはひとつ。陳腐な王道は視聴者を逃す、と。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2019年3月28日号掲載

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