「ボルタレン」が心臓病に効く――筑波大学研究グループが論文発表

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「ボルタレン」が心筋梗塞に効く――。そんな論文が「ネイチャー・コミュニケーションズ」に載ったのは2月20日のこと。発表したのは筑波大学の家田真樹(まさき)教授の研究グループだ。

 家田教授らは9年前、iPS細胞を使わずにマウスの心臓で心筋細胞を再生させることに成功している。心筋梗塞は拍動の役目を担う心筋細胞が減り、線維芽細胞ばかりが残る。そこで、線維芽細胞に特定の遺伝子を入れ心筋細胞を作れるようにしてやるのだ。「ダイレクト・リプログラミング」という治療法である。

 家田教授が言う。

「この治療法は将来的に移植手術が要らず、費用も抑えられる可能性があります。しかし、問題もありました。ダイレクト・リプログラミングは、胎児の心臓には効果的だったものの、年齢を経た細胞にはあまり効果が見られなかったのです」

 心臓病は高齢者に多い。画期的な治療法も、このままでは不十分だった。

「そこで考えたのが、化合物(薬剤など)を使って遺伝子によるダイレクト・リプログラミングの働きを促進できないかというアイデアでした。最初は8400種の候補物質を選び、ひとつひとつ試しながら絞り込んでいったのです」(同)

 そして最後に残ったのが、ジクロフェナクという化合物だ。解熱鎮痛剤の「ボルタレン」の主成分である。

「これには私も驚きましたが、ジクロフェナクを加えると心筋作製効率が3~4倍に高まったのです。調べてみると、高齢化した線維芽細胞は、心筋細胞の再生を邪魔する作用がある。ジクロフェナクは、その“邪魔”を抑えてくれるのです」(同)

 この治療法は、さらに実験を繰り返し、5年後ぐらいに臨床研究を目指す。だから、と家田教授が言うのだ。

「ボルタレンはダイレクト・リプログラミングを助ける薬ですから、それだけ飲んでも心臓再生には効果がありません」

 心臓に良いからといって薬局に走るのは早とちりだ。

週刊新潮 2019年3月21日号掲載

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