「アルツハイマー予防」に既存薬が劇的効果 大阪市立大教授が発見、メカニズムを解説

ドクター新潮 医療

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アルツハイマー予防に劇的効果の既存薬――富山貴美(1/2)

 近い将来、認知症患者が1千万人を超えることはもはや避けられない現実。一方、医療の最前線では、「予防」によってアルツハイマー病を克服する研究が進められている。大阪市立大学の富山貴美研究教授が明かす新たな認知症対策のカギは、意外にも既存薬にあった。

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 私が「リファンピシン」という薬に、アルツハイマー病の原因となるタンパク質「アミロイドβ(ベータ)」の蓄積を抑える作用があると発表したのは1994年のことです。この発見が四半世紀の時を経て、「予防薬」として結実しようとしています。

 研究のきっかけとなったのは、92年に報告された、日本のハンセン病患者に関する論文です。端的に言うと、ハンセン病患者の人たちは高齢になっても認知症を発症する頻度が極めて低かった。この論文に目を通した私は、「何かある」と感じました。

 ご承知の通り、ハンセン病患者は当時の国の政策によって強制的に隔離されてきました。そうした方々は長期にわたって外界から隔絶され、しかも、同じ薬を投与され続けてきた。

 もちろん、その時点では仮説に過ぎませんでしたが、患者が服用してきた何らかの「薬」が、アルツハイマー病の発症を抑制したのではないかと考えたのです。

〈謂(いわ)れなき差別に晒され、社会との接触すら奪われたハンセン病患者の痛ましい過去。時を超え、現代の「国民病」に立ち向かう斯界の権威が、かつての患者たちの歴史から、曙光を見出した瞬間である。

 認知症治療薬の開発が急がれるなか、目下、世界中の注目を集めているのが、富山貴美研究教授が進めるこの研究だ。〉

 ハンセン病患者に関する論文を読んだ私は、早速、患者たちに長期投与されてきた薬の調査に乗り出しました。主な薬はダプソン、クロファジミン、そしてリファンピシン。これらの薬を入手して「アミロイドβ」の凝集を防げるか調べたところ、最も顕著に効果が現れたのがリファンピシンでした。

 その後、原因タンパク質の小さな集合体である「オリゴマー」の形成を抑えることができるかを調べると、ここでもリファンピシンが断トツで優れた結果をもたらしたのです。さらに研究を重ね、リファンピシンはアミロイドβだけでなく、タウやαシヌクレインといった、様々な原因タンパク質のオリゴマー形成も抑制することが判明しました。

 これにより、リファンピシンがアルツハイマー病だけでなく、脳の神経細胞が徐々に失われることで発症する、他のタイプの認知症にも効く可能性が示されたわけです。

 続けて、私たちは遺伝子改変マウスを使った実験に移りました――。

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