なんだかイメージが違う「よつば銀行」の「真木よう子」 原因は“不気味の谷”?

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真木よう子の「不気味の谷」

 同じようなことは、主演女優についても言える。番宣用の画像で真木の髪が安いカツラみたいに不自然だったから、その一点だけで番組づくりにカネもチカラもかけてないことがバレバレだよなぁ、ってのがひとつ。

 もうひとつ、あの真木よう子が銀行員ってのはミスキャスト……という読みもあった。「黒革の手帖」のようなブラック女子行員の話ならまだしも、「よつ銀」の主人公ときたら、総合職で頭取(古谷一行)のお気に入りで副頭取(柳葉敏郎)の目の上のタンコブで支店(支店長は寺脇康文)の要というデキる女。そういう役に真木よう子でホントにいいのか?

 ところが、放送が始まってみたら、まず、いかにも銀行ウーマンらしい黒いショートの真木の頭には、番宣画像ほどの違和感はなし。キャスティング(2時間ドラマより豪華)にテーマ曲のタイアップ具合(NEWSにスガ シカオ)、脚本に演出、セットの大道具から衣装、小道具あたりまで見回しても、カネもチカラもケチってはいない。

 そして銀行員の真木よう子、これも思っていたほどには悪くなかった。制服じゃなくスーツ姿で、口から出るのは折り目正しすぎるくらいのきちんとした日本語、言動は論理的で合理的、正義感が強いけれど物腰は柔らかく落ち着いていて、上司に厳しく部下に優しい。動より静、花より実、派手より地味。杏が演じた元気な花咲舞とは大違いな、年寄りじみてさえいる役柄に、真木よう子36歳がそれなりにハマってる。

 ただ、そんなふうに単純に「なんだマキヨー悪くないじゃん」と思ってたのは初回から第2話あたりまでの話。第3話、第4話と見進めるうちに、今度は違和感が膨らんできた。「マキヨー、悪くないんだけど、なんか変だな」という。

 原島浩美を演る真木を見てて、最初に「あ、似てるな」と思ったのは、やっぱりアラフォーだったころの田中美佐子(59)。あっさり・さっぱりしてて芯が通ってるというイメージは田中だけじゃなく真木にもあるけれど、田中の場合はそこに優しさ・柔らかさも加わるのに対して、真木の場合、プラスされるのはキツさ・ハードさという具合だった。そのキツさ・ハードさが「よつ銀」では鳴りを潜めてて、前面に出てるのは優しさ・柔らかさ。仕事で壁にブチ当たってる若手行員に見せた、眼を細めての慈母系の笑顔なんて、本当に田中美佐子髣髴でした。

 が、やっぱり真木よう子は真木よう子、“田中美佐子が演じるような原島浩美を演じる真木よう子”には無理があった。第4話まで見終わって気がついたのよ、「よつ銀」の真木が田中美佐子以上に似てるのは、阪大の石黒浩が作ってるアンドロイドだ!

 プロフェッサー石黒ってのは、ヒトに似せたロボットと一緒にTVに出てきて、よく「不気味の谷」の話をしてる先生。ロボットが人間に似ていないうちはかわいく感じるのに、人間に似てる度合いが上がるにつれ、むしろ細かな差異が眼について違和感が高まり、“人間みたいなのに人間じゃない”という不気味さを開発者はなかなか乗り越えられない。それが不気味の谷です。

 いや、真木の芝居が人造人間みたいで下手、という話じゃない。演技がマズいのなら生じるのは不気味の谷というより、不器用の谷。真木の場合、“田中美佐子みたいなのに田中美佐子じゃない”からこそ生まれてるわけです、不気味の谷が。

 結局、田中美佐子的役柄と真木よう子とじゃキャラクターが違いすぎたってことなんだろうね。“コッチは気をつかわなくていいのに、アッチは気をつかってくれる”のが田中美佐子像なら、“コッチは気をつかわなくちゃいけないのに、アッチは気をつかってくれない”のが真木よう子像──イメージの差はあまりに大きくて、それなのに「よつ銀」で真木は田中美佐子系キャラを割り振られ、ワタシを道連れに不気味の谷に落ちた。

 真木よう子、34歳の折に主演した「セシルのもくろみ」(フジ系/17年)では、フツーの専業主婦がファンション誌の読者モデルに選ばれて……なんて役を、相当不器用に演じて平均視聴率が4.5%。このほとんど事故のような結果で、アラサー女優時代を締めくくりました。アラフォー女優となって最初の作品である「よつ銀」での役柄が、これまでとはまるで違うキャラクターであるのは、「セシル」での行き詰まりをブチ破るための取り組みだからなのかもしれない。

 そういう振れ幅のデカさ、あからさまな迷走は、真木と同じ36歳の深田恭子にもあって、アラサー時代には中学受験生の母や妊活に悩む主婦をやってたのに、今期の「初めて恋をした日に読む話」では3人の男(そのうち1人は高校生)から思いを寄せられる独身の予備校講師に若返り。36なのに36に見えない“奇跡の36歳”になっちゃってるっていう話は前回しました。

「よつ銀」の真木も“奇跡の36歳”ではあるんだけれど、同じ「36なのに36に見えない」といっても、深キョンは若見えしたのに対して、真木は真逆。深キョンと同い歳であることが奇跡に思えるほどで、人生いろいろ、36歳もいろいろ。予備校講師の深キョンと銀行員のマキヨーが同級生としてカラむドラマなんてのがあれば、「初めて恋を」より「よつ銀」より面白いだろうなぁ。

林操(はやし・みさお)
コラムニスト。1999~2009年に「新潮45」で、2000年から「週刊新潮」で、テレビ評「見ずにすませるワイドショー」を連載。テレビの凋落や芸能界の実態についての認知度上昇により使命は果たしたとしてセミリタイア中。

週刊新潮WEB取材班

2019年2月27日掲載

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