優勝者が「スロープレー」で大批判「米ツアー」に必要なこと

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 最近、世界のゴルフ界が喧しい。いろいろな事柄が次々に浮上しては物議を醸し、ちょっとした騒動へと発展しているのだが、それらを遡っていくと、必ずと言っていいほど、同じ1点に辿り着く。

 その1点とは、ペース・オブ・プレーのこと。平たく言えば、スロープレー問題だ。

 たとえば、今年1月1日から施行された新ゴルフルールは、長年の懸案であるスロープレー問題をどうしたら改善できるだろうかという疑問や課題が、ルール大幅改正のそもそもの出発点だった。

 従来のルールは複雑で難解ゆえ、プロもアマチュアもプレー中にルール上の処置に戸惑い、そのせいでプレーのペースが遅くなっていた。それならば、ルールそのものをシンプルで理解しやすいものに変えてしまえば、そのぶんプレーペースのスピードアップが図れるはず。ルール大幅改正の背後には、そういう意図があった。

 ところがいざ、新ルールが施行された途端、欧州ツアーでも米ツアーでも、キャディのラインアップ問題が大騒動になったことは記憶に新しい。ショットでもパットでも、プレーヤーがスタンスを取る際にはキャディはラインから外れていなければならないという新規定は、今年から施行された新ルールの1つだ。

 主に米女子ゴルフの世界では、長年、キャディの過度のラインアップ&アシストがスロープレーを引き起こしていると指摘され、問題視されていた。その状況を改善する目的で、ラインアップを禁じる規定が新ルールに盛り込まれたのだが、その適用と解釈を巡る騒動が男子ツアーで立て続けに起こったことは予想外だった。

 だが、いずれにしても、新ルールとそれにまつわる騒動の根っこには、スロープレー問題が常に存在している。

「どうか信じてほしい」

 そして今季は、せっかく勝利を挙げたチャンピオンがスロープレーで批判されるという、やるせない出来事が続けざまに起こった。

 ブライソン・デシャンボー(25)と言えば、理科学の理論や知識を駆使し、同一レングスのアイアンを使うなど、ユニークな取り組みで注目されている米国人選手。

 2016年にプロ転向し、米ツアーでは2017年に初優勝、2018年は年間3勝を挙げ、今季はすでに昨秋の「シュライナーズ・ホスピタルズ・フォー・チルドレン・オープン」を制し、米ツアー通算5勝を達成。2019年は「オメガ・ドバイ・デザート・クラシック」(1月24~27日)を制し、欧州ツアー初優勝を挙げたばかりだが、その際、彼のスロープレーに対する批判の声が周囲から多数上がった。

 デシャンボーが「オン・ザ・クロック(計測にかけられること)」になるのは、今に始まったことではない。米ツアーの大会では、ほぼ毎試合、計測されていると言っても過言ではない。

 ドバイでも、やはりオン・ザ・クロックになり、同組でプレーしたブルックス・ケプカ(28)は、「一体、どうしたら1ショットに1分15秒も20秒もかかるのか?」と苛立ちを露わにしていた。ケプカのみならず、他の選手や周囲からもデシャンボーのスロープレーに対する批判が巻き起こり、せっかくの勝利がすっかり翳ってしまった。

 噴出した批判に対し、デシャンボーはこう反論していた。

「自分はまだ経験値が低いからプレーには時間がかかる。ゴルフには人生と生活がかかっているから、どうしても時間がかかる。でも僕はスピードアップに努めている。どうか信じてほしい」

「ペナルティを科すべき」

 そして、2月14~17日に開催された「ジェネシス・オープン」で、再び優勝者のスロープレーが批判の的になった。

 悪天候に見舞われ、日没サスペンデッドと不規則進行が続いた4日間は、コースコンディションが悪化し、ただでさえ選手たちのプレーペースがスローダウンする状況だった。

 だが、そうした状況を差し引いても、優勝したJ.B.ホームズ(36)のプレーペースは「あまりにも遅すぎる」と、激しい批判が一斉に向けられた。

 最終日最終組のラウンド所要時間は5時間半を超えていた。テレビ中継のアナウンサーやコース上のレポーターたちも、「ホームズは他選手がショットする間に自分の準備を何もせず、自分の打順になってから準備をするからプレーが遅い」と、こぞって指摘した。

 ホームズとともに最終組で優勝争いをしたアダム・スコット(38)は、「JBは本当にスロープレーヤーだ。米ツアーはスロープレーヤーにきっちりペナルティを科すべき。このままだと、テレビ中継もスポンサーも失うまでスロープレーはツアーからなくならない」と語気を強めた。

 そうした声に呼応するかのように、SNS上でもホームズへの批判が膨れ上がり、またしてもせっかくの優勝が翳ってしまった。

 ホームズ自身は、「僕のプレーが遅かったことはあるが、きちんとスピードアップした。少なくとも今週の僕は、ただの1度もオン・ザ・クロックになっていない」と反論し、「大きな賞金やポイントがかかっているのだから、勢いだけでプレーはできない」と、デシャンボー同様の主張もしていた。

批判でも抗議でもなく

 批判する側にも、批判される側にも、それぞれの言い分や主張がある。第三者的に双方に耳を傾けてみると、どちらの主張も、なるほどと頷ける点がある。

 デシャンボーは計測には何度もかけられているが、実際にルールに照らしてペナルティを科されたことはない。そして、ホームズも、彼の言葉通り、ジェネシス・オープンでは計測にすらかけられていなかったのだから、彼らにはルール上は非がないことになる。

 しかし、スコットが指摘していた通り、スロープレーに対してはペナルティが明記されているにもかかわらず、米ツアーにおいて実際にスロープレーで罰打が科された例は、過去にわずか2度(1995年、2017年)しかなく、規定が形骸化しているという指摘もある(注:マスターズ委員会やUSGA、R&Aなどのメジャー主催団体は近年、各メジャー大会で罰打を科している)。

 とは言え、なかなか罰打を科さない米ツアーの姿勢が甘すぎることがスロープレーが改善されない原因なのかと言えば、そうではないだろう。そして、選手のほうも、ルール上、咎められなければ好き放題に時間をかけていいのかと言えば、もちろんそういうわけでもないだろう。

「誰のせいか」という具合に、特定の人や団体の責任を問うべき事柄ではなく、全選手と全キャディ、そしてツアー全体が、これまでの何かを変えたり改めたりして、みんなでプレーペースを改善する取り組みに本気で着手しない限り、スロープレー撲滅は起こり得ないと私は思う。

 グリーンを読むためのアンチョコである「グリーンブック」の禁止は、そのための1つの方策だ(「全米プロ」直前! 米ツアー大揺れ「グリーン“アンチョコ”ブック」禁止騒動 2018年8月8日)。

 全員でできること、全員で変えていけることを見つけ、増やし、みんなでスロープレーを改善していくべきだし、是非ともそうしていただきたいと切に願う。

 優勝した選手、活躍して目立った選手が、そのたびに「でもスロープレーだった」と批判され、騒動になる現象は悲しすぎるし、何より、プロを目指す子供たちの夢をつぶしてしまいそうである。

 下部ツアーのウェブドットコムツアーでは、マット・エブリー(35)という選手が他選手たちのスロープレーに業を煮やし、フェアウエイに椅子を持ってきて座ったまま自分の打順を待っていたという。そんな無言の抗議は、声を荒げる批判合戦よりマシかもしれないが、しかし問題の解決にはつながらないだろう。

「こうしたらどうですか?」「こうしませんか?」――本当に必要なのはペナルティでも批判合戦でも抗議でもなく、選手たちから発せられる前向きな提言ではないだろうか。

舩越園子
在米ゴルフジャーナリスト。1993年に渡米し、米ツアー選手や関係者たちと直に接しながらの取材を重ねてきた唯一の日本人ゴルフジャーナリスト。長年の取材実績と独特の表現力で、ユニークなアングルから米国ゴルフの本質を語る。ツアー選手たちからの信頼も厚く、人間模様や心情から選手像を浮かび上がらせる人物の取材、独特の表現方法に定評がある。『 がんと命とセックスと医者』(幻冬舎ルネッサンス)、『タイガー・ウッズの不可能を可能にする「5ステップ・ドリル.』(講談社)、『転身!―デパガからゴルフジャーナリストへ』(文芸社)、『ペイン!―20世紀最後のプロゴルファー』(ゴルフダイジェスト社)、『ザ・タイガーマジック』(同)、『ザ タイガー・ウッズ ウェイ』(同)など著書多数。

Foresight 2019年2月25日掲載

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