自衛官の息子は「お父さんは憲法違反なの?」と泣いたのか 教科書は今でも偏向していた

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 13日の衆議院予算委員会で、憲法9条に関連して、安倍首相と立憲民主党の本多平直衆院議員との間で激しいやり取りが繰り広げられた。
 従来より憲法9条を改正する理由の一つとして安倍首相は、自衛隊員やその家族の気持ちも考慮に入れている。命を賭けて国を守り、危険な任務についている自衛隊員を「違憲」の存在とするのでは、本人も家族もたまったものではない、という考え方だ。

 これに対して質問に立った本多議員は、

「(総理は)『お父さんは憲法違反なの?』と言われて、自衛官の息子さんが涙を浮かべていたという話をしているが、これは実話なのか」

 と問いただした。
 「改憲のために、都合のいい話をデッチあげてるんじゃないの?」と暗に言いたげな質問に対して、安倍首相は、「本多議員は、私の言ったことは嘘だと言っているんでしょ。それは非常に無礼な話ですよ」と語気を強め、こういう話で嘘をつくはずがない、と断言した。

 本多議員が「実話なのか」と疑った理由は、自身が駐屯地の近くで育ったが、そんな話は聞いたことがない、というものなので、いささか根拠薄弱にも見える。自分が聞いたことない、ということと「だから嘘では」にはかなりの飛躍があるだろう。

 ただ一方で、国民の自衛隊への信頼度が昔とは比べ物にならない現在において、そんなことがあるのだろうか、という疑念を表明する人は他にもいる。
 ジャーナリストの江川紹子氏は、ツイッターで「1970年代とか、いずれにしても昭和の話でせう」と述べている。これは本多氏の見方に近い。
 では、実際のところはどうなのか。

 残念ながら、少なくとも「1970年代」や「昭和」ではなく、現代の子供でも「自衛隊は違憲なのかも」と疑念を持つ機会は十分にありそうだ。元自衛官で評論家の潮匡人氏は、著書『誰も知らない憲法9条』の中で、中高生の教科書を検証している。そこでは相変わらず自衛隊へのネガティブな記述が散見されるのだ(以下、引用は同書より)。

 潮氏はまず中学校の「公民」教科書を検証してこう述べている。

「採択率の高い代表的な東京書籍(『新編 新しい社会 公民』)は、『平和主義』を説きつつ『自衛隊』に触れ、こう明記します。

 自衛隊と憲法第9条の関係について、政府は、主権国家には自衛権があり憲法は『自衛のための必要最小限の実力』を持つことは禁止していないと説明しています。

 そのとおりですが、注釈をつけ、『日本の防衛関係費の推移』と題した棒グラフを掲げ、1995年度以降は大きな増加がないものの、1955年以降の半世紀にわたり、右肩上がりで急激に増加したことがひと目でわかるようにしています。おそらく『必要最小限度』と言いながら、政府は防衛力整備を拡充させてきた(軍拡を続けてきた)、と言いたいのでしょう。なんともイヤらしい戦法ですね。
 本文でも続けて、こう明記してあります。

 一方で、自衛隊は憲法9条の考え方に反しているのではないかという意見もあります。

 いやはや、露骨な戦法ですね。自衛隊は憲法違反との先入観を植え付けようとしているとしか思えません。『反していない』という意見は無視、黙殺しながら、こう続きます。

 2015(平成27)年には、日本と密接な関係にある国が攻撃を受け日本の存立がおびやかされた場合に、集団的自衛権を行使できるとする法改正が行われました。これに対して、憲法第9条で認められる自衛の範囲をこえているという反対の意見もあります。

 ここでも、賛成の意見もあった事実は書かれていません。『反対の意見も』という表現で、賛成の意見があったことを暗に示している、という反論(?)が用意されているのかもしれませんが、それは詭弁ではないでしょうか。これでは自衛隊も、平和安全法制(安保法制)も憲法違反という印象を生徒に植え付けてしまいます。こんな一方的な教育をしてもよいのでしょうか」

 さすがに「自衛隊は憲法違反です」とは書いていないものの、暗に「その可能性もあるんだよ」と示しているのは事実なのだ。こうした手法は、教科書には多いようで、検証した別の教科書(『中学社会 公民 ともに生きる』教育出版)でも、次のような一文があるという。

「一方で、国民の中には、自衛隊のもつ装備が『自衛のための最小限度の実力』を超えるものだとして、自衛隊は憲法に違反するという主張もあります」

 こうした記述を潮氏は厳しく批判する。

「たしかに違憲と解釈する学者はいます。ですが、『自衛隊は憲法に違反する』と『主張』する『国民』など、ごくごく少数に過ぎません。
 なのに、それを、わざわざ取り上げ、義務教育段階で教科書に明記し、そう生徒に教える。これでは自衛隊も、集団的自衛権の行使も、憲法違反ということになってしまいます。こんな一方的な教育をしてもよいのでしょうか」

 なお、潮氏は同書の中で、小学校の教科書にも問題があると指摘している。

「日本文教出版の教科書(『小学社会6年下』)の手口はさらに巧妙、悪質です。『はるとさんたちは、平和主義と現在の日本について、新聞やニュースを見て気になったことをもとに、みんなで話し合うことにしました』と、以下の会話(?)を掲げています。

『憲法の平和主義との関係で、日本の平和と独立を守ることをおもな目的としている自衛隊に対してさまざまな意見があると書かれてたよ。』
『沖縄にあるアメリカ軍基地をめぐって、基地をなくしてほしいという住民運動がおこなわれたというニュースを見たよ。』
『日本国憲法で、平和主義が定められているいっぽうで、平和に関する問題が今も残っているんだね。』
『平和主義と現在の日本を考えるには、日本と外国との関係や世界のできごとを知る必要もありそうだね。』

 ……いやはや、比較的まともな発言は最後のものだけ。あとはすべて、小学生を、私がいう『護憲平和教』に誘導しています。
 もはや『武力』とか『戦闘』とかの問題にとどまりません。たとえば、最初の発言や3番目の発言を読まされた自衛官の子弟が、どんな気持ちを抱くか。想像してみてください。義務教育で、こんなことが許されるのでしょうか」

 涙うんぬんはともかくとして、自衛隊関係者が憤っているのは間違いないようなのだ。

デイリー新潮編集部

2019年2月25日掲載

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