「児童虐待」は27年連続で増加の異常事態、こんなに沢山ある根本的に減らない理由

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抜け道のせいで専門性の低いワーカーも

 また“プロ不在”の問題も。児童相談所の児童福祉司(ケースワーカー)になるには、通常、児童福祉司の任用資格が必要とされる。そのほかにも、保健師や保育士等の関連資格を有し、指定施設での実務経験の後、指定講習を受講して児童福祉司になるというルートも存在する。

 しかし、山田氏によれば、この資格には“抜け道”があり、専門性が低いワーカーも少なくないというのだ。

「抜け道とは『3科目主事』と呼ばれるもので、大学や短期大学の所属学部に限らず、医療や教育、社会福祉、法律、社会学など34科目の中から、3科目以上を履修して卒業していれば、『社会福祉主事』の資格を得られ、児童相談所で働けるという仕組み。さらに2年以上働けば、児童福祉司の任用資格も得られることになっています。これではあまりにも専門性が欠如しており、どのような状況で子どもを助けるべきなのか判断がつかないでしょうね」

 とはいえ、児童虐待は、児童相談所だけに責任を押し付けるべき問題ではない。子どもの異変に気づきやすい学校や幼稚園の教員、保育士、医療従事者などの誰かが発見できれば子どもを守れるはずだが、それも簡単ではないようだ。

「日本は、アメリカやイギリスのように虐待の通告に関する研修がしっかりなされていません。学校などによっては、マニュアルをつくっているところもありますが、親に一度確認してから児童相談所に通告するようになっているところもあります。結局親が虐待の事実を認めるわけがないので、そのまま放置することになるわけです。親に確認などしないで子どもの命を守ることを第一に考えるのは、本来当然のはずなのですが…」

 さらにここにきて新たな問題も生じている。昨年の暮れごろから今年初めにかけて、高所得者層が多く住んでいる南青山では、児童相談所新設を巡って、「青山のブランドイメージが下がる」「地価が下がる」などの理由から、地元住民の反対運動が起きているのだ。

 これまで述べてきたように、虐待されている児童にとって、児童相談所の役割が重要なのは言うまでもない。

 そして、虐待が深刻化する前の早期発見・対応が何よりも重大であるのに、子どものSOSに気づきながら、手を差し伸べない社会は、果たして健全なのだろうか。

取材・文/福田晃広(清談社)

週刊新潮WEB取材班

2019年1月28日掲載

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