何がそんなに面白いのか? 小学生までも虜にする「TikTok」の危険性

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金がかからず身ひとつでできる

 インスタグラムやツイッターなどのSNSで「いいね!」を獲得し、承認欲求を満たすことが生きがいになっている人は少なくない。そうしたユーザーは大学生や社会人に見られたが、TikTokの出現で、今や小学生までも承認欲求の虜になりつつあるようだ。TikTokの人気のワケと、膨張する承認欲求について『シェアしたがる心理~SNSの情報環境を読み解く7つの視点~』(宣伝会議)の著者で、電通メディアイノベーションラボ主任研究員の天野彬氏に聞いた。

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 2018年の新語・流行語大賞にもノミネートされたTikTokは、ショートムービーをスマホで共有できるSNSアプリ。最大15秒の撮影時間の中で、音楽に合わせての“口パク”や、ダンスを記録できるサービスだ。さらに動画編集機能では様々なエフェクトやフィルターも使用できる。これが今、若年層に大人気で、特に小中学生のユーザーが増加しているのだ。その理由について天野氏はこう語る。

「ツイッターやインスタは自ら発信するコンテンツが必要でした。たとえばインスタでは、“インスタ映え”という言葉通り『映える』体験やアイテムが必要なのでお金もかかります。そのためユーザーは高校生以上がほとんどでした。一方、TikTokは、スマホひとつ身ひとつで手軽に動画が作れて、『映え』要素もいりません。そのぶん消費活動が盛んではない小中学生のユーザーが参加しやすいのだと思います」

 2018年7月、調査会社MMD研究所がTikTokの認知度について調査したところ、10代では6割以上が「利用している、あるいは知っている」という結果だった。実際に、TikTokでは30万人のフォロワーを持つ小学生もいるほど、若年層のユーザーが目立つ。

「もはや最近は口パクだけでなく、与えられた指示に応えて音に合わせた変顔をしてみるおもしろ系など、ネタっぽい投稿が増えて『なんでもあり』な状態です。そのため投稿のハードルはさらに下がっています」

小学生が犯罪に巻き込まれる危険性

 手軽さと「なんでもあり」が売りのTikTokは、SNSのなかで最も気兼ねなく承認欲求を満たせるコンテンツのひとつとなっている。

「TikTokでは、かつて『#広告で有名になりたい』というタグをつければ、アプリ内の広告に出られる対象となるキャンペーンもありました。そのタグをつけた動画の再生回数は32億回以上といわれます。現在も、不特定多数の人に見てもらうため『#おすすめにのりたい』や『#大人気になりたい』とタグ付けする小中学生のユーザーも多く、いかに多くの人に見てもらうか、そしてそれを通じた承認効果を求めているかが分かります」

 いまや小学生も承認欲求と自己顕示欲の虜といえる。しかし、彼らの多くは、まだ判断能力もネットのリテラシーも低いため、事件に巻き込まれてしまう危険性も大いにある。

 実際、TikTokでは、女子小学生とおぼしきユーザーがコメント欄で住所や学校名を聞かれ、ナンパされている投稿も珍しくない。さらにTikTok発祥の地、中国では10歳の女児が同アプリを通じて知り合った成人男性からプレゼントを買ってもらうなどといったニュースも話題になり、事件への発展も懸念されている。TikTokは女児と成人男性の出会いの温床となりつつあるのだ。

「リテラシーの低さから、国内外に広く発信されるとは思いもよらず、ついプライバシーを特定される投稿をしてしまうケースもあるようです。制服や通学路をうっかり載せてしまえば、簡単に生活圏を割り出すことは誰でもできますからね」

飽和状態のSNSで次なる価値を探す

 SNSが急速に広まった2000年代以降は、mixi、ツイッターやフェイスブックなどが流行し、2017年はインスタグラム、2018年はTikTokが花開いた時代であった。

 ある人にとっては、SNSはさながら麻薬に近いものだろう。一度、承認欲求を満たす快楽を味わってしまうと、そこから抜け出すのは難しい。今後、人々はTikTokをはじめとするSNSと、どのように付き合っていけばいいのか。

「SNSは承認欲求を満たすだけではない魅力もあります。例えば趣味が合う人と知り合えることや、ハッシュタグを使った情報収集などです。このような『プチ有名人になれる』だけではないSNSの楽しみを各々が発見すれば、過度な承認欲求に流されることなく、失敗のない使い方になると思います。また、自分の投稿に対して他人はどう思っているのか、自慢話ばかりで相手を不快にさせていないかなど、周りの使い方を反省材料にしたり、友人や知人からフィードバックをもらえれば、肥大化する承認欲求は修正されていくのではないでしょうか」

 言わずもがなだが、他人の自慢話を快く聞いている人間などいるはずもない。投稿内容を第三者に評価してもらうことで自分を客観視することができ、承認欲求からも解放されるのだ。

「それを使うユーザーの数やつながりが価値を生むSNSの特性から考えて、いまあるSNS社会のあり方が大きく転換するようには思えません。どのように付き合っていくべきなのか、SNSの洗礼をモロに受けた我々にはネットのリテラシーをTikTok世代の子どもたちに教えていく義務が課せられています。もちろん親によるリテラシー教育も必須でしょう」

 もはや、SNSで承認欲求を満たす時代は終わりを告げ、次なる利用価値をユーザーが見つけるべき時がきたのかもしれない。

取材・文/沼澤典史(清談社)

週刊新潮WEB取材班

2019年1月18日掲載

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