“児相反対”に揺れる南青山、古参住民は「雰囲気変わる? まったくナンセンス」

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“福祉がなんだ!”

 次いで、14年在住の40代主婦は、

「4年くらい前に閉鎖された『こどもの城』(国立児童館)と似たような子供たちの施設が出来ると聞いていました。しかし、今回の報道で児童相談所が出来ると初めてわかり、驚いています。こどもの城と児童相談所だとかなり違いますし、街の雰囲気が変わるかもしれないと思うと少し心配な気持ちもありますけど、特に反対という気持ちはありません。子供が殺される事件が起きたりするのは都の運営する児童相談所が定員オーバーだからだとか、職員が足りないからだとかっていう話を聞くじゃないですか。行き場のない母子家庭の人だとか、虐待を受けている子供を受け入れるための施設だと言われれば、子を持つ親としては反対することは出来ないですよね。ただ、反対派の人たちが言っているように、使われるのは私たちの税金なんですから、もう少しきちんと説明して欲しいというのはありますよね」

 と控えめながら賛成する一方で、10年住むという同年代の主婦は大反対。

「都心のこれだけの場所にわざわざ児童相談所を作る必要があるのって思いますし、みんな口にはしにくいけど、他所に作って欲しいって思ってるはず。私の友人の間ではそういう意見が多い。南青山に住むって、それなりに努力して来た人達じゃないですか。お金の面でも、税金の面でも、決して安くないですよ。差別みたいに聞こえるかもしれませんけど、もともとの街の雰囲気とかあるじゃないですか。わかります?」

 何かの歌ではないけれど、育ってきた環境が違うから好き嫌いは否めないということなのか。土地神話を戴いてきた日本の象徴的なテーマであり、“南青山国”内の意見統一は一筋縄では行かなそうだ。

「私の事務所は南青山にありますけど……」

 とは、評論家の大宅映子氏。

「“not in my back yard”、つまり、“私の家の裏庭はやめて”という表現がありますね。自分の住んでいる場所のすぐ近くに火葬場が出来るとか、焼却場が出来るとかならまだ反対する気持ちが分からなくもないけれど、今度建てるのは児童相談所でしょう。児童相談所は、困っている子供たちを救うための場所。それを忌み嫌うことはおかしなことですよ。最近、目黒区のあの可愛いお嬢ちゃん(船戸結愛(ゆあ)ちゃん=当時5歳)が虐待されて亡くなった。“字の練習をするから許して”だなんて、思い出すだけで涙が出てくる悲しい事件がありました。ああやって罪のない子が亡くなっているということは、救えるはずの命をそうできていない状況がこの国にあるわけです。“虐待を受けた子が暴力を振るうかもしれない”なんて偏見には呆れるし、南青山には虐待なんて一件もないと思ってるのかしら。見たくないのか、見えていないだけでしょう」

 その一方で、評論家の呉智英氏はこう突き放す。

「高速道路とか原発を作るとかであれば、反対する大義名分があるわけですよ。だけど今回の場合、福祉というものが絡んでくるわけで、“じゃあお前、福祉に反対するのか”と当然言われるわけでしょ。それに真っ向反論出来ないから話が複雑になっているんです。住民がどうしても白紙撤回を求めるなら、“そもそも福祉がなんだ!”って開き直っちゃうか、“国家権力がやることの一切が悪いんだ。そこに何を作ろうと嫌だ”って言っちゃうか、それしかないですね」

2019年1月3・10日号掲載

特集「爪に火をともして『南青山』住人が『児童相談所』反対の言い分」より

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