銀行や卸売業だけじゃない! 「アマゾン・ゴー」に日本のコンビニが戦々恐々!?

ビジネス 企業・業界

  • ブックマーク

Advertisement

 ありとあらゆる商品を扱う世界最強のECサイトと言えばアマゾンだ。アマゾンは現在、15カ国でサイトを展開し、有料のプライム会員数は世界で1億人を突破、売上高は2017年決算で約20兆円と、巨大ぶりが甚だしい。だが、アマゾンの躍進により世界中で小売業の崩壊が進んでいる。アメリカでは大手の百貨店や小売店が次々と追い込まれ、「アマゾンエフェクト」と呼ばれるほど各業界が戦々恐々としている。

 ***

 ここ数年では、アマゾンが銀行業に参入するのではないかとの観測が強まっているが、次なるターゲットはどこなのか。また、既存の業界が生き残るすべは、アマゾンとの共存しかないのか。ここではその名もズバリ『アマゾンエフェクト!――「究極の顧客戦略」に日本企業はどう立ち向かうか』(プレジデント社)の著者で、株式会社デジタルシフトウェーブ代表取締役社長の鈴木康弘氏にアマゾンと既存業界の今後を占ってもらった。

 まず、鈴木氏の経歴について説明をしたい。鈴木氏は、1987年、富士通にSEとして入社したが、96年ソフトバンクに転職し営業、新規事業企画に携わり、99年ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立し、代表取締役就任。2006年に会社ごとセブン&アイ・ホールディングス傘下に入ったが、実は鈴木氏は同社会長(当時)だった鈴木敏文氏の子息である。その後、同社CIOを経て、17年に現在の会社を設立し、様々な企業のデジタルシフトの支援をしている。

「アマゾンが日本に上陸してきた2000年は、私がソフトバンクでネット書店のイー・ショッピング・ブックスを立ち上げた翌年のことです。アマゾンはさすがに強く、06年にはアマゾンの日本事業の想定売上は約1000億円を超え首位に立ち、私たちは年間売上200億円程度で第2位でした。その当時は、まだ熾烈な競争を繰り広げられましたが、その後、06年にクラウド事業のアマゾン ウェブ サービス(AWS)、07年にプライム会員が日本でも導入されて、『正直、これは敵わないな……』と思いましたね」

 AWSとは、アマゾンが提供するWebサービスの総称。アマゾンは自社が持つストレージやデータベース、サーバーなど、さまざまなサービスをネット(クラウド)上で公開し、ユーザーはそれらを利用することができるという仕組みだ。

クラウド事業で他の事業の赤字を補填

 17年のアマゾン全体の営業利益は41億ドルだったが、AWSはそれよりも多い43億ドルだった。28億ドルの利益を上げた北米部門に対し、国際部門が30億ドルの赤字。その差2億ドルの赤字を、稼ぎ頭のAWSが補っている格好だ。AWSという虎の子を得たアマゾンは、矢継ぎ早に新規事業を打ち出し、拡大し続けている。

「私がネット書店を経営していた時に強く意識していたのが『ネットとリアルの融合』というテーマです。例えば、私が経営していたネット書店では、ネット上で本を注文し、受け取りと決済はセブンイレブンの店舗で行う仕組みでした。宅配便で配達する方法も用意しましたが、フタを開けてみると店舗での受け渡しを選んだ顧客が7割でした」

 小売業は最終的に「ネットとリアルの融合」の形態を取るだろうとの考えから、鈴木氏はネット事業に強いソフトバンクからリアル流通業のセブン&アイに移った。そのほうが「ネットとリアルの融合」というゴールへの近道だと思ったからだ。

「ところが、アマゾンの躍進ぶりを見るにつけ、それが読み違いだったことが明らかとなりました。というのは、人間の意識の問題があったからです。ネットは、時間や距離、量、面積など制約のない世界であるのに対し、リアルはそれらの制約のある世界です。となると、制約のない世界で育ったネットの人間のほうが、自由な発想で事業を展開できるのです。私はセブン&アイというリアル流通業からネットとの融合を目指しましたが、流通業ではすべての発想においてリアル店舗がベースとなり、それをデジタルにシフトさせていくことは大変でした」

 もっとも、最近はアマゾンのリアル事業への進出が目立ってきている。15年11月にはアマゾンが運営するリアル書店アマゾン・ブックスがワシントン州シアトル市にオープンし、17年8月には米食品スーパーのホールフーズ・マーケットを買収し、18年1月には一般顧客向けのレジなしコンビニ、アマゾン・ゴーがシアトルにオープンした。

アマゾン・ゴー、レジなしの驚異的便利さ

 この中で鈴木氏が特に驚かされたのがアマゾン・ゴーである。

「アマゾン・ゴーは今年の11月に視察しに行きましたが、本当に凄いです。客は店のゲートのスキャナーにスマホのQRコードを読み込ませ入店し、店内に並べられているお目当ての商品を自分のバッグに放り込み、ゲートを通って外に出ると会計終了です。店内のカメラやセンサーで客がどの商品を手にとったのかを把握し、レジはありません。私も意地悪していろんなことをしましたが、行動はすべて拾われました」

 日本では人手不足からレジなしコンビニへの関心が高まっているが、むしろアマゾン・ゴーは調理や商品の補充などで「日本のコンビニより店内にスタッフが多い」と一部報道ではいわれていた。アマゾン・ゴーのレジなしの発想は、別のところから来ているのだ。

「アメリカは店の人がフレンドリーで客がやってくると『ハイ!』なんて声をかけてきますが、それが嫌だというアメリカ人もいます。それで、サッと入ってサッと出られるコンビニがあってもいいではないかというのが、アマゾン・ゴーの開発の原点なのだそうです。私自身もアマゾン・ゴーを利用してみて、レジ待ちがないことのストレスのなさを実感しました。振り返ってみると、私も行列があるとモノを買わないことがありますから、レジがないというのは本当に革新的なことです。今もアマゾン・ゴーは進歩をしていて、カメラも最初の店舗よりもどんどん減ってきてコストが低下しています」

 現在、アマゾン・ゴーの店舗数はアメリカで9店舗だが、ブルームバーグの報道によれば、アマゾンは21年までに3000店舗の展開を計画しているという。アマゾンはこれを否定しているが、事実ならば既存の小売業にとってまさに脅威だ。

 アメリカでアマゾン・ゴーが成功すれば、当然、日本への進出も時間の問題だ。ただでさえアマゾンエフェクトで打撃を受けている店舗ビジネスは、息の根を止められるかもしれない。日本の小売業が生き残るにはどうすればよいか。

アマゾンに買収されるか、徹底抗戦か

「まず、アマゾンに白旗を上げて買収されるという選択肢が1つ。ただし、その場合は小売業であっても良質のプライベートブランド(PB)を作れるだけの実力が必要です。アマゾンに買収されたマーケットチェーン『ホールフーズ』も充実したPBを持っていました。もう1つ、アマゾンに徹底抗戦するという選択肢があります。その場合、生まれ変わるぐらいの覚悟でIT化を推進しなければなりません。大企業がこれをやろうとすると、必ず社内から反発が出てきますから、経営者には強いリーダーシップが求められます。アメリカでこれができているのは、16年にネット通販ベンチャーのジェット・ドット・コムを買収してから急激な改革を推進しているウォルマートです」

 最近のウォルマートは、リアル店舗で来店客数が増加しているとともに、ネット販売が絶好調で、今年18年は電子商取引売上高でアップルを抜き、アマゾン、イーベイに続く3位につける勢いだという。

 リアル店舗企業でも、ウォルマートのように大変革をして、アマゾンに対抗することは可能だ。ただし、そのためには徹底した意識改革が求められるだろう

取材・文/星野陽平(清談社)

週刊新潮WEB取材班

2019年1月2日掲載

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。