言いたい放題!「まんぷく」の松坂慶子が魅せる、ニュータイプ「朝ドラの母」像

芸能週刊新潮 2018年12月27日号掲載

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 その女は1秒たりとも黙っていない。何かにつけて文句を言う。自分の子供たちがやることなすことすべてにいちいち反対し、愚痴を垂れる。自分が蔑(ないがし)ろにされていると、大人げなく拗(す)ねる。時には仮病を使い、家出して心配をかけまくる。

 武士の娘を自称し、家に入った泥棒に勇ましく立ち向かい、荒くれ男たちの喧嘩を一喝で鎮める迫力もある。一方、高価な着物は手放したくない女の矜持も。家業の売上からちょいちょい失敬して、へそくりを築く堅実さも。ちょっとおだてられたり、褒め殺しされれば、いとも簡単に白旗を揚げる。厄介に見えて単純。案外、懐柔されやすい性質。

 もうおわかりだろう、朝ドラ「まんぷく」の松坂慶子である。主役・安藤サクラの実母役で、そりゃもうやりたい放題。朝ドラの母役って、優しく温かく娘の成長を見守り、夫には盲従、というタイプが多かった気がする。慶子は真逆。とにかく言いたいことは言う。言わなきゃ損、とばかりにいちいち難癖をつける。

 でも不思議。毎朝慶子が必ず文句を言うのに、不快じゃない。むしろ気持ちがいい。可愛らしく品のある声だから? 文句言っても家族に流されているから? いや、違う。たぶん「イヤだ」「おかしい」「変だ」と思うことを、空気を読まず遠慮なく吐き出すからだ。

「今これを言ったら、皆が気を悪くするだろうな」と、普通なら遠慮して飲み込む言葉を、慶子は速攻で吐き出す。脳内で複雑な神経伝達によって「和」を選び取る作業を慶子は一切しない。

 特に、娘の夫たち、男に対し、手厳しくて小うるさい。勤め人でなければ結婚を認めず、自営業者や芸術家を目の敵にしてきた慶子。そこには、亡き夫が事業で失敗した苦い経験があるからだ。まあ、とにかく男を信用していない。視聴している女性たちの心の奥底に潜む「一見、優しくて頼もしく見える男性への、言葉にならない不平不満」の代弁者なのだ。言語化しないだけで、じわじわと溜めこんでいる負の感情。それを慶子は躊躇なく口に出す。もちろん悪意はない。鳥がさえずるように、ちゅんちゅんと文句を垂れ続ける。

 そんな義母をもつ長谷川博己も大変だなと思いきや、実はうっちゃり上手。右から左へ聞き流し、聞こえないフリでやんわり対抗。「厄介な義理の親との正しい付き合い方」だ。もはや無法地帯と化した慶子を全員で無視するシーンや、慶子の一言でブツッと切られるシーンは快感になりつつある。

 慶子の存在のお陰で家族はなんとなくまとまるし、大阪放送局御用達の手練れな役者陣に頼らなくても、白馬の王子様などコミカルな脇役の連投がなくても、場が和む。夫を愛するがあまり唯々諾々の主人公に対する不満も解消。こうなるとタイトルは「武士の娘の娘とその夫」でもいいかと。

 冗談はさておき。好みでモノを語ったり、違和感を素直に口にすると「これだから女は」と言われる時代は終わった。性別・容姿・年齢に関係なく、主語は自分でモノを言う時代に。朝ドラでそれを再確認したよ。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。