時間が経てば「高輪ゲートウェイ」も当たり前に(中川淳一郎)

国内 社会 週刊新潮 2018年12月27日号掲載

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 2020年に暫定開業する山手線の新駅が「高輪ゲートウェイ」になることが決まり、さっそくネット上ではブーイングが殺到、JR東日本に対して撤回を求める署名活動も始まりました。一般から駅名を募集し「高輪」「芝浦」「芝浜」がトップ3になったのに、わずか36票で130位の「高輪ゲートウェイ」になったことも批判の根拠です。

 でも、この手のものって一旦運用が開始されると案外慣れてしまうものなんですよね。2010年、奈良への遷都1300年を記念して登場した童子の頭に角の生えた「せんとくん」だって最初は大ブーイングを浴び、撤回運動も発生。その後、「まんとくん」という、無難なキャラを民間団体が公募の末、一般投票により誕生させました。

 結局せんとくんは、その異形が他のゆるキャラにはない強烈なインパクトを残し、今では奈良県の公式キャラにまでなったわけです。一方で「まんとくん」のこと、奈良県民以外の皆さん知ってますか? このように、最初は反発したくなるものも、慣れてしまえばどうってことなくなることって多いんですよね。それともアレですか、一企業がやっていることに文句を言って変えさせるのを常態化させたいんですかね?

 正直、今回の「高輪ゲートウェイ」はセンス悪いと思います。でも、JR東日本の決めたことなんで、いちいち文句をつける筋合いはないんじゃない? こんな文句がまかり通ってしまったら、自動車の名前だって変更に追い込むことは可能になります。

 日産の「シルビア」だって、全世界のシルビアさんが「こんなクルマと私のイメージは違う! この名前を冠した車は全部スクラップにして!」なんて言い出して通ったらもはや地獄です。「不快に思ったら声をあげて撤回させる社会」は不健全です。当然JRの駅というものは公共性が高いものではありますが、一私企業が決めたことになんでここまで撤回要求をするのか。

 そもそもヘンテコな駅名なんていくらでもあるし、自治体の名前にも、自分だったら恥ずかしくて住みたくないようなものは案外多い。「天王洲アイル」「YRP野比」「半家(はげ)」などがあります。16年に廃止された「増毛(ましけ)」なんて、ヅラ疑惑が出た細川たかしがこの駅で疑惑を否定したりもしました。

 あとは空港にしても、愛知県には「中部国際空港セントレア」なんてものがあるし、自治体の名前でも様々な合併などを経て「まんのう町」「南アルプス市」「つくばみらい市」ってもうアホですか?

 しかも、中央線の国分寺駅と立川駅の間に駅を作る際に「えーい、1字ずつ取って『国立』でいいんじゃね」みたいに付けた「国立(くにたち)」がそのまま市名になった例もあります。「こくりつ」ではありません。私は立川市民で、国立市については「なんてテキトーに決めたんだ」と呆れましたが、一橋大学、国立音楽大学、国立高校、桐朋高校があり、今や立川・国分寺よりも圧倒的にブランドは上です。

 色々なことは時間が経てば当たり前になっていきます。地名や駅名もそうです。誰かが決めたことをいちいち撤回させるのに血眼な人間に自分は生まれなくて良かったなと思います。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんしゅうきつこ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。