埋め立て反対「ローラ」が知らない沖縄の「自然破壊の不都合な真実」

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 モデルのローラが沖縄県辺野古沖埋め立てに反対する署名への参加を呼びかけた一件は、「芸能人の政治的発言の是非」といった議論にまで発展している。漫画家の小林よしのり氏がブログで「ガンガンやってほしい」とエールを送る一方で、デーブ・スペクター氏や西川史子氏らは「サンデージャポン」で否定的なコメントをしている。

 ただ、そもそも彼女自身にどこまで政治的な問題だという意識があったのかは不明なままである。

「美しい沖縄の埋め立てをみんなの声が集まれば止めることができるかもしれないの」という彼女の言葉からは、どちらかというと自然保護に関心が強いようにもうかがわれ、安全保障に関連した問題だという認識があるのかどうかは判然としないのだ。以前の彼女の言動から推察すれば、

「みんな、美しい海が埋められるって悲しくない? 全然オッケーじゃないよね。トランプさんに『やめて』って言おうよ。それでストップできたらオッケーだよ!」

 という程度の気持ちから発した言葉のようにも見える。

 しかし、外交や安全保障のことなんか考えておらず、「美しい海」を守りたいと本気で思っているのならば、沖縄の他の海や自然の現状についても知っておくべきかもしれない。

 沖縄は決して、自然保護の優等生だとは言いづらい面があるのだ。『沖縄の不都合な真実』(大久保潤・篠原章著)には「『自然の楽園』という幻想』という項があるので、以下、抜粋して引用してみよう(記述はいずれも刊行時=2015年のもの)。

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(沖縄が)「自然の楽園」というイメージも間違いではありませんが、実は自ら自然破壊を行っていることは、あまり知られていません。世界的にも貴重なサンゴの海と島北部の森林を、主体的な意思で破壊し続けているのです。本来、自立にとって欠かせない沖縄ならではの資源が、自然であるはずです。これ以上、自然破壊を続けたら観光産業は崩壊します。ところが、その自覚がありません。

 沖縄の行政、経済界、マスコミにとって現在の最大の関心事は那覇空港の増設です。空港の後背地に広がる自然海岸である大嶺海岸を埋め立てて、もう1本滑走路を作ることは「県民の総意」(仲井眞前知事)です。空港の過密状態を緩和して沖縄観光の拡大を図る目的ですが、那覇空港は陸海空の全自衛隊が共用している軍事基地です。県民は軍事基地を増やし、海を埋め立てることに「総意」で賛成しているのです。増設に反対しているのは、沖縄大学元学長の桜井国俊氏や弁護士会の一部などごく少数派です(略)。

 沖縄島には、すでに38カ所も人工ビーチがあります。生き物の気配がない砂浜に変わり続けています。(略)

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 国が公開している那覇空港の滑走路増設のHPを見ると、「美しい海」に巨大な滑走路が建設される予想図が掲載されている。サンゴの移植など自然保護に配慮をしているとはいっても、「美しい海」が損なわれることは明らかだ。そして、この工事には猛烈な抗議運動などは起きていない。

 海だけではない。北部の森林も政府の助成金により伐採が進み、貴重な生物が棲家を失っている。皮肉なことに、日本に返還されていない森林のほうが自然が保護されている面すらあるという。

 こうした事情があるため、「自然保護」を理由に「辺野古埋め立て反対」を唱える人たちに対しては、「なぜここだけ問題にするのだ。結局、米軍基地に反対する口実として自然保護を使っているだけではないか」といった反論が寄せられることがあるというわけだ。

 言うまでもなく沖縄の基地問題は、安全保障や日米関係だけではなく、自然保護、地元の経済(格差)など様々な問題を内包した複雑な構造になっている。ローラの口癖のような「オッケー!」的な正解は簡単には見つからないのだ。

デイリー新潮編集部

2018年12月28日掲載

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