日曜夜にナンセンスギャグの嵐、橋本環奈に白目剥かせる「今日から俺は!!」

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 久々に同級生3人と海外旅行へ行ってきた。新鮮な海鮮に屋台のファストフードを食べまくり、服や皮革製品を買い漁り、懐かしい昔話に同級生の消息、仕事の話に老後の憂い、家族や親族の話など、それぞれ立場も生き様も違う4人が集まって盛り上がった。楽しくて、有意義な旅だった。

 振り返ってみて、最も強烈に覚えているのがなぜか「肛門が痙攣する」という話だった。友人のひとりは学生時代からズバ抜けて優秀で、名門大学を出て大手企業に就職。すでに管理職で部下も多数。夫もいて、持ち家もある。そんな絵に描いたような成功者が「肛門の痙攣」に苛まれている。痛い・かゆいではなく、座っていると勝手にピクピクするという。旅の最大の思い出が、彼女の肛門の痙攣。

 ドラマで数字を獲りたいときは、自然と守りに入るものだ。大上段に構えて正攻法あるいは王道で。心を揺さぶる熱い何か、感動だか正義だかわからないが、そういう仕掛けや見せ場、そして決め台詞。実にわかりやすいモノが数字を獲る。

 ところが、そういうドラマはすぐに内容を忘れてしまう。月日がたっても脳裏に焼き付いているのは案外邪道なモノや、予想外の暴挙だったりする。「グルメや買い物、旅の王道の思い出よりも肛門」みたいな。

 友人の肛門と並列して申し訳ないが、「今日から俺は!!」は、ビジュアル的に記憶されやすい邪道系ドラマである。今期ナンバーワンに挙げる人がやたらと多い。40代以上は間違いなく「懐かしくて面白い」と言う。

 個人的には、何らかのメッセージや主張があり、社会の隅っこを切り取るようなドラマや、負の感情の交差を炙り出すようなドラマが好きだ。面倒臭いヤツね。今の世の中の疲弊しきった空気を、生きづらい人たちの気持ちを掬(すく)い取って……なんて気概は毛頭ないのが、「今日から俺は!!」であり、福田雄一率いる一座である。

 恋と友情と喧嘩と早弁、ツッパリもどきのヤンキー高校生の物語で、毎回喧嘩とボケ合戦。日曜夜にナンセンスギャグの嵐という暴挙。歴史には残らないが、記憶には色濃く残る暴挙だ。

 原作漫画の軽妙さに、コスプレと悪ふざけをまぶし、いつものメンバーでお届けする福田劇場。若手俳優や人気アイドルを正々堂々と横道に逸れさせて、白目を剥かせ、顔の筋肉と股関節を妙に鍛え上げさせる。独特の間合いやクセの強いセリフ回しを、うっかり会得させちゃうスタイルである。

 正直に言えば、この独特なボケ合戦にはちょっと食傷気味なのだが、しれっとまとめる教員役のシソンヌ長谷川忍と、おバカな友人を傍観する矢本悠馬のセリフは毎回楽しみにしている。

 あ、解説を忘れてた。主演は脂も乗って、コメディ筋肉も発達しきった賀来賢人。身体能力がめちゃ高いりゅうちぇる風味。石川遼の髪型をまともにして100倍爽やかにしたような伊藤健太郎も、福田一座に侵され始めている。詳しく解説するほどでもないので、絵には過去最多人数の13人を詰め込んでみた。大所帯、大の大人が悪ふざけ、の図。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2018年12月6日号掲載

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