YouTubeと自己啓発に活路を見出した「キングコング」 結成20年の生き残り術

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 群雄割拠の芸能界。なかでも「お笑い」のジャンルは、“上”がつっかえているのに“下”からは新顔が続々登場……という過酷な状況である。そんななか、最近、ニュースで名前を見かけるようになったのが、西野亮廣(38)と梶原雄太(38)の「キングコング」だ。2019年で結成20年を迎える中堅コンビの、生き残り戦術とは。

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「19年末でチャンネル登録者数が100万人を超えなかったら、芸人を引退します」

 そんな公約を掲げて、梶原がYouTubeに「カジサック KAJISAC」を開設したのは、今年10月1日のことだった。主に他の芸人を招いてのトークを配信するチャンネルで、交通事故を起こした「インパルス」の堤下敦(41)が仕事復帰を動画内で報告したり、同期ながら話したことがなかったという「南海キャンディーズ」の山里亮太(41)との初トークを公開したりとで、現在の登録者数は53万人(12月4日現在)にのぼっている。

 すでに公約の半数を達成している格好だが、ちなみに梶原は、2008年のM-1時にも「優勝を逃したら嫁と離婚する」と宣言。実際は8位に終わるも離婚せず、こちらは公約違反に終わっている。そしてその嫁も、梶原のYouTubeチャンネルに出演している。

なんだか流行の芸能人YouTuberの流れに乗っかっただけのように見えるが、

「いえ、コンビとしては『毎日キングコング』というのを13年から始めているから、むしろYouTubeに進出したのは早いほう。もっとも、こっちは2人のトークが中心内容で、時代を先取りし過ぎたのか、それとも面白くないと思われているのか、チャンネル登録者は10万人……」(スポーツ紙記者)

“にわか絵本作家”

 一方、相方の西野は、10月に発売したホリエモンこと堀江貴文氏(46)との共著『バカとつき合うな』(徳間書店)と、11月刊行の『新世界』(KADOKAWA)がヒット中だ。前者は発売1カ月で19万部を突破、後者は先月26日付ランキングで13万5千部を記録している。

 気になるその中身だが、どちらもオリコンでの分類は「自己啓発書」ジャンル。西野が“教えを説く”内容だ。近年の西野が、絵本作家として活動したり、いわゆる有料の会員コミュニティ「オンラインサロン」を主催したりしているのは、ご承知のとおり。著書ではそうした体験に基づく内容が綴られていて、例えば、“にわか絵本作家”として、専業の作家から批判を受けたことについては、

〈「俺たちはこれを生業として描いてるのに、芸人のくせに絵本を描きやがって」と。絵本作家の人や、絵本を生業にしようとしている人にめっちゃ言われましたね。上世代の人たちの中には、いまだ専業主義のようなものが根強く残っている人がいます。「それだけで食ってることが、それのプロであるということだぞ」というやつ〉(『バカとつき合うな』内「にわかを否定するバカ」より。改行略、以下同)

 詳しい中身は1300円(税抜)を払って本書を読んで頂くとして、最終的に〈専業主義者たちに揶揄されるような活動をむしろやっていこう。自由と可能性はそこにある。〉とまとめる。

もう一冊の『新世界』は、どちらかというとビジネス寄りの中身で、クラウドファンディングや前述のサロン運営などの記述にページが割かれている。〈失敗と成功を積み重ねてきたキングコング西野が向き合い続けるお金と信用、そして未来の生き方の具体的戦略〉という帯のアオリを読めば、どんな内容かお察し頂けるはず。お値段は1500円(税込)也。

 かたやYouTube、かたや自己啓発で名を売るお笑いコンビ。芸歴2年3カ月で決勝進出というM-1の最短記録を打ち立てた頃とは、隔世の感がある。

“はねトび世代”の受難

 コンビが歩んできた道のりについて、江戸川大学教授でお笑い評論家の西条昇氏はこう解説する。

「ロバート、ドランクドラゴン、北陽、インパルス、そしてキングコングらの若手をレギュラーに深夜番組として2001年にスタートしたのが、フジテレビの『はねるのトびら』でした。05年に番組がゴールデンに進出したことで、彼らは“これでお笑い界のさらに上にいける”と思ったはず。ところが、実際はそうはならず、番組は12年に終わってしまった。これについては、たしか西野さんも同じように当時を振り返っていたと思います」

ダウンタウンならば「ダウンタウンのごっつええ感じ」で、ウッチャンナンチャンは「ウッチャンナンチャンのやるならやらねば!」、ナインティナインが「めちゃ×2イケてるッ!」(いずれもフジ系)のゴールデン番組を足掛かりに、全国区での人気を不動のものとしていったというのは定説である。一方、キングコング、ならびに“はねトび”メンバーは、そうはならなかった。

「もっとも、ダウンタウンやウッチャンナンチャンは、ゴールデン進出の時点で『冠番組』でしたから、事情は少し違います。『めちゃイケ』は冠番組でこそありませんが、実質的にはナインティナインの番組だったといえるはず。一方、『はねトび』は、特定のコンビあるいはトリオの番組、というわけではありませんでした。放送が終了した背景には、ゴールデンに進出して以降、コントが減ってゲーム的な企画が増えたことで、深夜時代のファンが離れてしまったことなどがあると思います。しかし同時に、“上”が詰まっていて、その壁をメンバーが越えられなかったこともあるはず」

 タモリ(73)、ビートたけし(71)、明石家さんま(63)、……彼ら“BIG3”以下、お笑いの世界には強固な“上”がいる。『新世界』で西野は、

〈その山を登れば景色が広がるものだと信じて、誰よりも努力をして登ってみた。だけど、そこから見えた景色は、タモリさんや、たけしサンや、さんまサン、ダウンタウンさん、ナインティナインさん…といった先輩方の背中だった。彼らのことをまるで追い抜いていなかったし、一番の問題は、追い抜く気配がなかったことだ。〉

〈そこで。先輩方が足を踏み入れていない世界に出てみることにした。芸能界の外だ。〉

 と綴り、「絵本」や「サロン」に進出した事情として挙げている(いずれも『新世界』より)。

「そう考えれば、ドランクドラゴンの塚地武雅さん(47)は俳優として、インパルスの板倉俊之さん(40)は小説家としても活動しています。梶原さんや西野さん以外にも、いわゆる純粋なお笑い以外に活路を見い出しているのが、“はねトび”メンバーの特徴といえるかもしれません」(前出の西条氏)

成り上がるには厳しい世代だった、というのは分かる。だがそれは結局、本業にして“王道”であるお笑いから逃げただけ、という気がしないでもないが……。

「それは違うと思いますよ。“王道”を行くことへの向き不向きというのがありますし、そのために若手に求められる能力も、時代時代で違うわけです。『ボキャブラ天国』の時代なら番組の方向性に沿ったネタ作りが、『電波少年』ならばリアクション芸が、今ならひな壇でのトークという能力が、それぞれが求められるわけです。そこに合うか否か、芸人にもタイプがある。“王道”を行くのが難しければ、自分に合う場所を見つけ、表現したいことを表現する。私は彼らを立派だと思いますよ」

 その道の“キング”になるのが難しければ、ほかのところで……。置かれた場所で咲くだけが、芸ではないということか。

週刊新潮WEB取材班

2018年12月5日掲載

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