「一夫一妻制」が精子の劣化と関係あるってホント!? 男性不妊の原因を探る

ライフ 2018年11月21日掲載

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 男性の精子が減少している。2017年に発表された論文によると、1973年から2011年にわたり欧米人、オーストラリア人、ニュージーランド人男性の精液を調査したところ、精子濃度は52・4%減少、精子数は59・3%減少していることが明らかになった。つまり、現代人は生殖機能が低下しているということを示唆し、事実世界各国で不妊症の増加が報告されている。

 精子の減少については様々な要因が考えられるが、名古屋大学大学院生命農学研究科教授の松田洋一さんの著書『性の進化史―いまヒトの染色体で何が起きているのか―』によると、遺伝的な要因や外的要因によって「男性の生殖機能の低下は今後も続いていくことが予想されます」という。そもそも、同書では現代の一般的な結婚形態である「一夫一妻制」も精子の劣化に大いに関係していることが、明かされている。(以下、同書より抜粋)

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一夫一妻制が引き起こす精子の劣化

 一夫一妻制をとっていない自然界の動物とは違って、ヒトの一夫一妻制という結婚形態では、他の精子との間に、自分自身の子孫を残すための受精競争、いわゆる精子間競争というものは存在しません。したがって、ヒトの社会では、精子間競争という厳しい自然淘汰にさらされることなく弱い精子を保護し、さらに弱い精子が持つ遺伝子が次の世代に伝えられることによって、結果的に弱い精子の遺伝子を集団中に残す原因となります。その結果、ヒト集団における精子の劣化を加速していることになるわけです。

 一方、たとえば、決まった相手を作らない「乱婚系」であるチンパンジーの精子は、ヒトの精子に比べて非常に運動能力が高いことが知られています。これは、自分の遺伝子を後代に残すための必須条件であり、かつ戦略であるといわれています。つまり、精子間競争という強い自然淘汰にさらされた結果、受精にあずかる確率が高くなる、運動能力の優れた精子が持つ遺伝子が、集団中に残されていく可能性が必然的に高くなるわけです。

 ところで、チンパンジーとゴリラの睾丸はどちらが大きいと思いますか? 実は、チンパンジーとゴリラの精子を比較すると、その質は数においても活動力においても格段の差があることがわかっています。

 チンパンジーの身体の大きさはゴリラの4分の1ほどにすぎません。しかしながら、チンパンジーの睾丸のサイズはゴリラのおよそ4倍もあります。体重比に換算すると15倍にもなります。ゴリラの雄はハーレムを作り繁殖相手の雌を独り占めできるため(ハーレム型複婚=一夫多妻制)、必然的に精子間競争を必要としません。そのため精子の絶対数が少なくなると考えられます。

 一方、チンパンジーは、他の異なる雄個体と雌を共有する社会構造を持つため、必然的に雌は乱婚となり、雌は体内に複数の雄の精子を受け入れることになります。つまり、精子が雌の体内で混じり合い、ひとつの卵子に到達するための精子間競争が起こることになるのです。そのため、チンパンジーの雄が自分の遺伝子を次世代に残すためには、運動能力の高い精子を大量につくり、頻繁に交尾をして雌の体内に自分の精子を送り込む必要があるのです。そして、受精相手の卵子をめぐって複数の雄の精子との厳しい競争に打ち勝ち、自分の子供を残す機会を増やさなくてはなりません。したがって、精子間競争に打ち勝つことができる活発な精子を大量に作ることができる遺伝子、つまり受精能力が高い精子を作る遺伝子が次世代に残されることになるわけです。

 ヒトの精巣重量の体重比はゴリラよりも数倍も高く、1回の射精あたりの精子数もゴリラの5倍近くになることがわかっています。このことは、乱婚による配偶システムを持つ社会がかつてヒトにも存在した名残である可能性も否定できないことを示しています。そして、現在のヒトが持つ一夫一妻制という婚姻形態が、ヒトの精子の劣化を促進していることは間違いないようです。

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 だからといって、「今すぐ乱婚に戻せば精子の減少が食い止められる」ということではもちろんない。

 松田さんも同書の中で「精子数のあまりにも急激な減少は、『一夫一妻』という社会システムによって引き起こされた現象という理由だけでは説明ができない」と言い、まだ疫学的なデータの裏付けはないが、「流通している食品添加物や、インスタント食品の容器や塗料、コーティング剤などに含まれる内分泌かく乱物質、農薬などの化学物資、喫煙、さらには電磁波」といった外的要因や、「肥満やストレス」など様々な生活要因が関係している可能性を指摘している。

 まずは、精子が劣化しつつある現実と、向き合うことが大切なのではないだろうか。

デイリー新潮編集部