結婚しないと人間失格!? 野村周平が人権無視の国家と闘う今期イチオシ社会派ドラマ「結婚相手は抽選で」

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「今期イチオシは?」と聞かれることが増えた。既に話題のドラマだと話は早い。が、いつ、どの局で、誰が出ているかも知られていないドラマになると、一から解説が必要。設定を話すと全員が「面白そう」と言ってくれるのが「結婚相手は抽選で」だ。先月から3週連続でフジテレビ系ドラマを揶揄してきたが、これだけは全力で絶賛したい。多くの人が抱える「横暴な権力につけられた心の傷」を描く、社会派ドラマなのだ。

 まず、戦慄の設定を。首相の収賄疑惑から国民の関心を逸らすために、トンデモ法案が可決された。その名も「抽選見合い結婚法」。

 25~39歳の独身男女が無作為に選ばれ、強制的に見合いさせられるという。会って気に入らない相手なら断ることもできるが、3回断ると「テロ対策活動後方支援隊」に2年間従事しなければいけない(除隊後の職場復帰は政府が保障というが眉唾)。参加者は相手に望む条件をひとつだけ挙げられる。条件に合わないと事務局に認められれば、断ってもノーカウントに。ただし、前科者、子供がいる人、離婚歴がある人、在日外国人は初めから除外。少子化対策という大義の陰に明白な人権侵害が存在する。現内閣ならやりかねないと思わせるクソ法律だ。

 主人公は本来は優しくて正義感が強いのに、思春期の躓(つまず)きが原因で潔癖症を抱える男性。2次元に走り、キモオタ扱いされる野村周平だ(持ち前のヤンチャ臭を消去して好演)。当初は「モテない自分が女性と出会えるなら」と期待して参加したものの、野村がコミュ障で潔癖症と知った相手から毛嫌いされたり罵倒されたりする。めちゃ傷つく。毎回ズタボロ満身創痍。

 ところが出会った女性たちの中には、この法律自体に傷つき、苦しみ、テロ対策支援隊に従事する覚悟を決める人がいた。仕事に打ち込んできたキャリア女性の富山えり子は「結婚しないと、国に人として認められないなんてどうかしてる」と悔し涙を流す。子宮頸がんで子宮全摘した平岩紙は「産めないのに強制参加させられる、人権無視の欠陥だらけの法律」と憤る。野村は国家に傷つけられた人たちの存在を見過ごせなくなり、ブログを立ち上げて声を拾い始める。反対派のジャーナリスト・大西礼芳とも繋がっていく。

 産めよ殖やせよ、それが嫌なら戦力として犠牲になれって、どう考えても戦前ニッポンの悪夢。ところが軽い気持ちで乗っかる人もいれば、現状打破を期待する人もいる。諦観する人も。

 自分にべったり依存してくる母に悩む佐津川愛美。高飛車な令嬢だが、ボンボン彼氏(平坦が売りの大谷亮平)に「母性がない」とフラれて焦る高梨臨。野村の友人でゲイの松本享恭は、わざと相手に断られるよう仕向けて乗り切る策を選ぶ。

 私腹を肥やして国民を爪楊枝程度にしか考えていない政治家、思考停止で翻弄される人、涙と覚悟で茨の道を歩む人、声を上げて闘うかどうか迷う人。今の日本そのまんま。縮図。こんなこと滅多に書かないが、「ぜひ若者に観てほしい」。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2018年11月15日掲載

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