元徴用工勝訴で韓国「ハンギョレ新聞」の異様 文在寅大統領の“野望”実現を後押し

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「当然の判決」と賛美

 日韓関係が破壊されつつある。いわゆる元徴用工裁判で、韓国最高裁が原告勝訴の判決を下したことが原因だ。

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 念のために振り返っておく。韓国の最高裁にあたる大法院は10月30日、いわゆる元徴用工裁判で原告4人の勝訴とし、被告の新日鉄住金に1人1億ウォン(約1000万円)の賠償を命じた。

 実は徴用されたのではなく、募集に応じた労働者という問題も法廷で浮上したのだが、まずは先に進もう。日本の全国紙は朝日新聞から産経新聞まで、トーンの濃淡はあるにせよ、判決を批判的に報道した。

 これに韓国のメディアも反応。韓国の全国紙・中央日報は11月1日(日本語電子版)、「親韓的だったはずの朝日新聞と東京新聞でさえ大法院の判決を批判した」という主旨の記事を掲載した(「<韓国、徴用工判決>日本メディア、『韓国疲れ」主張しながら非難一色』)。

 韓国の世論は決して一枚岩ではない。それは判決を論じた新聞各紙の社説からも読み取ることができる。代表的な記事を、いくつか見てみよう。

 トップバッターはハンギョレ新聞だ。こちらは突出して判決を支持している。日本人からすると異様と言っていい。

 ハンギョレ新聞は1988年に創刊。比較的歴史の浅い全国紙で、論調は最左派に位置づけられている。ちなみに韓国では96年から「ハンギョレ」だけを題字にしている。しかし日本では「ハンギョレ新聞」の表記が多いため、それに従う。

 社説の見出し(10月31日・日本語電子版、以下同)は「あまりに遅かった13年目の強制徴用判決」だ。内容を箇条書きしてみよう。

◆上告審で判決が下るまで約5年。前・朴槿恵政権の意向から「裁判取引」に応じ、判決を引き延ばしたという恥ずかしい話だ。司法の当事者は、亡くなった原告の霊の前に土下座して謝罪しても足りないだろう。

◆今回の判決は、日帝強制占領期の被害者を遅まきながら救済したという点で意義が大きい。日帝の植民支配と強制動員自体を不法に見る韓国の憲法の価値体系に照らしてみれば当然の内容だ。

◆3権分立の民主国家で司法府の独立的な判断が尊重されることは常識だ。日本もまた民主政権なら自重するのが当然だ。

 判決は正しい。被告である新日鉄住金は黙って慰謝料を払え。日本政府も横槍を入れるな――結論部分を抽出すれば、こんな感じになるだろう。

 対して他紙の論調は、奥歯に物が挟まった印象が強い。自国の最高裁が下した判決が胸を張れるものではないと知っているようだ。

 朝鮮日報は1920年創刊。韓国の新聞で最古の歴史を持ち、最多部数230万部を誇る。保守派の論調で知られる同紙の社説に、判決支持の主張は見られない。社説の見出しは「韓日両国は強制徴用問題の荒波を乗り越えねばならない」となっている。

◆盧武鉉政権は強制徴用に対する損害賠償問題は事実上終わったという見方を示した。その判断を下した委員会に、文在寅大統領も関与していた。だが大法院はそれとは異なった判決を下した。

◆中国の習近平・国家主席と日本の安倍首相は先日笑顔を見せながら握手したが、これは歴史問題と外交あるいは国益を区別するものだった。

◆韓国政府は司法の判断を尊重する一方で、韓日間の信頼を改めて確認する手立てを考えねばならない。両国の首脳が今後の関係について虚心坦懐(たんかい)に話をする場を設けることも一つの方法だろう。

 こちらは「とにかく話し合いましょう」という、日本の社説でもおなじみの主張で結んだ。それでも盧武鉉(1946~2009)政権時に個人補償権の放棄を確認したと、しっかり触れているのは重要だろう。いずれにせよ、ハンギョレ新聞の社説に比べると相当に穏健だと言える。

 もう1紙の紙面もご覧いただこう。中央日報は保守派とされるが、中道左派寄りの論調にも理解を示す。同紙の社説は朝鮮日報と同じ対話路線を呼びかけるものだったが、申ガク秀・元韓国駐日大使(63)の論文を11月5日に掲載した。見出しは「【時論】強制徴用判決の影響、韓日協力で解決するべき」となっている。

◆判決により韓日関係がさらに冷え込む恐れがある。韓日の歴史和解に相当な負担をもたらすことになりかねない。

◆2015年の日本軍慰安婦合意の無力化に続き、従来の立場を覆す大法院の判決まで出て、日本と国際社会における韓国の信頼度を落とすことになる。

◆最も望ましい解決策は基金の設立だろう。韓国政府、韓国企業、日本企業の3者が拠出すれば、韓日協力の円満な解決方法になりえる。国際司法裁判所を舞台とすることは、国際世論戦に利用されるだけだ。

 基金を落としどころにする提案は日本の報道でも散見されるが、注目点は今回の判決が「韓国の信頼度を落とす」と元駐日大使が明記したことだ。「ちゃぶ台返し」の判決に呆れる声が、日本だけのものではないことが分かる。

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