寄生虫感染で自殺率1・5倍… 成人にもリスクがある「トキソプラズマ」レポート

ドクター新潮 医療

  • ブックマーク

Advertisement

脳を蝕む?

 長崎大学病院小児科の森内浩幸教授の話。

「先天性以外の感染を後天性トキソプラズマ症と呼びます。健康体の方であっても発熱や倦怠感、リンパ節の腫れを引き起こす場合がありますが、一時的な症状なので問題はありません。でもたとえば、エイズ患者や臓器移植後の免疫不全者ではトキソプラズマによる脳炎や肝炎に要注意。重篤な症状につながります」

 他方、精神疾患や性格といった、脳とトキソプラズマの関係性についてもさまざまなデータがあるという。

 チェコの進化生物学者、ヤロスラフ・フレグル氏の報告の要旨はこうだ。

〈トキソプラズマに感染した人は反応時間が遅くなるため、交通事故に遭う可能性が2倍以上高まる〉

 自身が感染していることを知ったフレグル氏が1990年ごろから15年間、実験と分析を行ったとのこと。

 帯広畜産大学原虫病研究センターの西川義文教授によれば、

「あくまでマウスによる実験ですが、トキソプラズマに感染したマウスが統合失調症の患者さんの病態に近いとの結果が出ています。感染したマウスの、電気ショックを予測する“すくみ反応”を観察したところ、反応を示しませんでした。このとき、大脳皮質と扁桃体に起きていた変化が統合失調症の病態に似ているのです」

 脳が蝕まれて反応が鈍くなり、恐怖心の薄れにつながるのではなかろうか。西川教授とは別の研究者のレポートには、感染マウスは猫を恐れるどころか近づいていくとの結果もある。

 また、米メリーランド大学医学部のテオドール・ポストラチェ氏が精神医学誌に寄せた研究論文の要約は、

〈トキソプラズマ原虫に感染した女性は自殺傾向が高まる。感染した女性は感染していない女性と比べて自殺を試みる割合が1・5倍高かった〉

 こちらはデンマークの女性約4万5千人が対象で、感染と自殺傾向との関連が十分予測できる発見があったとしている。

 ほかにも、過去の研究において、感染によって統合失調症や躁鬱病となる可能性を示唆する結果もある。

次ページ:治療薬事情

前へ 1 2 3 次へ

[2/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。