黒い松崎しげるに見た“超マイナー”戦略(中川淳一郎)

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 芸能人や専門家として仕事を獲得するには、超マイナーな分野で目立つのが大事なんだなと松崎しげるを見ていると実感します。漫画『ベルセルク』の40巻記念で公開された実写版PVで「その男、黒い剣士。」として松崎が登場します。「ガッツ」という黒い鎧を身にまとうキャラを松崎が演じたのですね。

「ベルセルク」の公式ツイッターでは「“黒い剣士”ガッツと、“黒い歌手”松崎しげるさんが“黒い”つながりコラボ」と説明しているように、松崎はとにかく「黒い」企画があればまずは名前が挙がる存在です。彼に続くのが洋食の老舗「たいめいけん」の3代目茂出木浩司氏でしょう。

 こうなったら、「機動戦士ガンダム」の実写版PVを作る場合、モビルスーツ「ドム」を操る「黒い三連星」の3人として松崎、茂出木氏、そして清原和博氏か石破茂氏にも出てもらいたいものです。石破氏は2013年7月の参議院選挙で街頭演説に立ち過ぎたせいかまっ黒になり、「焦げたアンパンマン」と評判でした。

 さて、「超マイナーな分野で目立つ」ですが、よく考えたら自分も、スケールは小さいもののそのポジションでした。一つは「広告業界出身で広告業界の暗部を口汚く指摘できる」でしょう。広告関係者というものは基本的にはポジティブの塊で、もうクライアント様の商品はサイコーです! その魅力を生活者に最大限伝えるクリエイティブ(広告)を私が作ります。私の作る広告は生活者へのラブレターです! みたいなキラキラしたことを言うものです。

 しかし、人々が知りたいのは炎上した広告の問題点や、業界のブラック労働の実態等です。となれば取材依頼やコメント依頼を受けた業界人は「悪口を言ったらもう新規のクライアントを獲得できないかも……」なんて思いそのオファーを拒否する。

「誰か悪口を言いまくるヤツいねぇかな」と思った時に「あぁ、中川でいいか」となり、私の元にその手の仕事が舞い込んでくるわけです。

 9月にはNHKの「クローズアップ現代+」で「アドフラウド(ネット上の広告詐欺)」をテーマにしましたが、この時は「広告主と広告代理店の仕事のやり方が分かっていて、ネット広告を配信するニュースサイトの人」という、これまた超マイナー分野の人間だからこそ生中継に出させてもらいました。その時、肩書には「ネットニュース編集者・元博報堂社員」というよく分からないものが書かれていましたが、これが視聴者を納得させるには必要だったのでしょう。

 かつての「一発屋」はこれがうまくできています。ダンディ坂野は「ゲッツ!」でブレイクしましたが、今やCMにひっぱりだこ。何かを獲得することを意味する「ゲッツ」なんてキャンペーンにピッタリだし、マクドナルドの「チキンマックナゲット」を「ナゲッツ」と複数形にすれば「ゲッツ」を活用でき、CMキャラに就任。狩野英孝にしても、「ラーメン・つけ麺・僕イケメン」という持ちネタがあるから、カップラーメンのCMや、メンズメイクのCMに出られたりします。

 カズレーザーの「赤い服」とか「金髪」なんかもあれ、相当に練られた「超マイナーな分野で目立つ」戦略なんでしょうね。頭いいなぁ。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんしゅうきつこ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2018年10月25日号掲載

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