“LINEで部下を注意”は危険! 意図せず「パワハラ」告発されないためのケーススタディ

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「パワハラ」「セクハラ」告発されないためのケーススタディ(2/3)

 職場でのいじめや嫌がらせ、いわゆる「パワハラ」についての相談件数は、15年前と比較して10倍以上に増加(厚生労働省雇用環境・均等局雇用機会均等課)。ブームの感さえあるが、一方で法整備は追い付かず、パワハラの定義はあいまいなまま。意図せず“加害者”にならないためにはどうしたらいいか。パワハラやセクハラ問題を得意とする田中康晃弁護士(田中・石原・佐々木法律事務所)とともに考えるケーススタディである。

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【某団体では残業代を請求する者が少なかったが、職員Aはある月の残業が多かった。所属課長に申請すると、課長はAの前で部長に「若いときは残業も勉強のうち。われわれは申請なんてしなかったですよね」と言った。】

「残業代を申請するのは労働者の権利。それを否定すれば、パワハラに該当する可能性が高くなります。この場合のように職員の面前で第三者に話すのも、本人に直接言うのも、ともにダメです。ただし、たとえば飲み会の席で“俺たちのころは残業代なんて請求できなかったよ。君らはいいなあ”と言うのは大丈夫。理由は、一般論を語っているにすぎないからです」

 ところで、パワハラと認定されると、どんな処分を受けるのか。田中弁護士に補足してもらうと、

「刑事責任を問われうる場合でも、実際に傷害罪や暴行罪に問われることは少ない。多いのは損害賠償と懲戒処分。それも懲戒解雇ではなく、減給や出勤停止が多い。しかし、“前科”はその組織にいるかぎりついて回り、重要なポストに就けないなどの不利益を蒙る。ハラスメントが原因であると本人にも知らせず、適当に処分されているケースも多いようです」

【社員Aが同じミスを繰り返したことで、取引先から今後の取引を断られてしまった。このため上司が「なにをやってたんだ、君じゃなくて、そこら辺の学生にやらせればよかった」と発言した。】

「最初に言い方。感情的になったり怒鳴ったりすれば、それだけでパワハラ認定される可能性があります。受け取る側がどう感じるかも重要な要素なので、怒鳴った自覚がなくても相手がそう感じればパワハラと判断されることもある。イラッとしても、突発的に怒る前に時間を置いて気持ちを落ち着けることです」

 また、比較対象を出すのも危険だという。

「“そこら辺の学生”とくらべて社員Aの能力不足を露骨に指摘すれば、侮辱に当たる。精神的苦痛を与えたとして、パワハラに該当する可能性が高い。穏やかに言ってもダメです」

 では、ミスをした社員Aから仕事を奪ってしまった場合はどうなるか。

「できる、できないの線引きは難しく、社員Aに“本当はできた”と主張されると厳しい。社員Aがミスをしなくなるように、上司がフォローすることが望ましいのです。また、早々に社員Aの能力を見限って、簡単な仕事ばかりを与えた場合、1回や2回ならいいものの10回も続けば、会社として嫌がらせをしたと判断されかねません」

説教は「精神的苦痛」に

【月曜朝、取引先から重要な連絡を受けていないと苦情が。先週中に連絡するように社員Bに指示した案件だ。Bを「大事な連絡を怠るとは、どういうつもりだ」と叱責したが、「朝から人前でそんなことを言われたら、仕事する気も失せます」と逆切れされた。】

「ほかの社員の前での叱責は自尊心を傷つけることになり、内容を問わずパワハラ認定される可能性が高い。ほかの社員を萎縮させて職場環境を悪化させた、という判断にもつながる。個別に注意し、たとえ相手に非があっても、冷静に淡々と対処することが肝要です」

【社員Cと一緒に取引先を接待した帰り道、タクシーのなかでCに「いつも、もう少し丁寧に仕事するようにしよう」と伝えた。すると、Cは「どうしてそんなに高圧的なんですか」と抵抗した。】

「お酒が入ったら、仕事のことは一般論に留めたほうがいい。つい説教めいたことを言ってしまい、“精神的苦痛”を受けた、と主張されうるからです」

【夜9時、すでに退社後に取引先から、「今日中に必要な書類が届いていない」と苦情が。社員DにLINEで尋ねると、「送り忘れていた」との返事が。怒った課長が「なにやってんだ」「あり得ないだろ」とLINEを送ると、Dから「課長がもっと早く渡してくれれば忘れなかった」と反論の返信が届いた。】

「LINEのようなSNSを使って注意をすると、証拠を残してしまうことになるので危険です。特に感情的表現が少しでも入っていると、それを使って訴えられるリスクがあります」

 つづく(3)では、セクハラのケーススタディを紹介する。

週刊新潮 2018年10月11日号掲載

特集「専門弁護士が教える『パワハラ』『セクハラ』告発されないための『ケーススタディ』」より