“ZOZO”で注目 今さら月に行く意味は(古市憲寿)

古市憲寿 誰の味方でもありません 国内 社会 週刊新潮 2018年10月11日号掲載

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 ZOZOTOWNの前澤さんによる月旅行計画の発表から、にわかに世間の宇宙に対する興味が高まっている。

 1972年を最後に人類は月へ行っていない。理由は簡単で、莫大なお金がかかる割には、大したリターンがないからだ。アポロが月を目指した1960年代は米ソ冷戦の真っ最中。どちらが先に月へ辿り着けるかには、両国の代理戦争という面があった。逆に言えば、象徴的な意味を除けば、月に行く理由はほとんどない。

 アポロ計画にかかった費用は約250億ドル、現在の貨幣価値でいえば10兆円は超える巨額だ。だから月には半世紀近く、人類は寄りついて来なかった。

 そもそも有人宇宙飛行自体、必然性があまりない。たとえば、気象衛星やGPS衛星は、現代人の生活にもはやなくてはならないものだ。

 また宇宙開発は、軍事と密接に結びついている。ロケットとミサイルの形状はほぼ同じ。イプシロンのような固体燃料ロケットと、大陸間弾道ミサイルには技術的に多くの共通点がある。ロケット技術は、軍事的にも重要なのだ。

 翻って、有人宇宙飛行はコスパが非常に悪い。お金もかかるし、しばしば宇宙飛行士は命を落とす。それにもかかわらず、人類史を変えるような発見があったわけではない。この半世紀、ほとんどのイノベーションは地球上で起こってきた。

 人類もバカではない。多くの国家では、宇宙開発予算の削減に努めている。社会保障の充実など、もっと優先度の高い案件がたくさんあるからだ。

 そんな中で出てきた新しい流れが、民間企業による宇宙開発だ。アポロやスペースシャトルなど、これまでの宇宙の主役は主に国家(特にアメリカ)だった。

 しかし考えてみれば、宇宙ロケットには半世紀以上の歴史があり、半ば枯れた技術になりつつある。

 つまり、民間でも十分に宇宙を目指せるはずなのだ。その中で頭一つ抜けているのが、イーロン・マスク率いるスペースX社。彼らは2002年の創業以降、ロケットの打ち上げ実験を繰り返してきた。

 まるで飛行機に乗るように月へ行ける時代が来るというなら夢がある。問題となるのは成功率だ。スペースXが最も多く打ち上げたファルコン9の失敗率は3%。しかし月旅行に使用するロケットはまだ開発中。宇宙へ行くのは不可能ではないが、飛行機よりはるかに危険なのは間違いない。

 月旅行には、アーティスト6~8人が招待されるらしい。選ばれるかは別として、何人かの若いアーティストに話を聞いたら、「絶対に行きたい」という人は思いのほか少なかった。若いので万が一のことを考えてしまうらしい。そして、月へ行ったところで本当に斬新な作品を作れるかわからないとも言っていた。確かにこれだけ情報環境が発達した時代、月くらいじゃ感動できないのかも知れない。

 計画が順調に進めば月旅行は2023年の予定。本当は、読者年齢層の高い「週刊新潮」の読者プレゼントとかに丁度いいと思っている。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目される。著書に『だから日本はズレている』『保育園義務教育化』など。