アルツハイマー型認知症は「脳の糖尿病」だった 治療の最前線

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「脳の糖尿病」

 そんな中、十数年前から注目を集めているのが、「アルツハイマーは脳の糖尿病」という考え方である。九州大学生体防御医学研究所教授の中別府雄作氏はこう語る。

「アメリカのブラウン大学のスーザン・デラモンテ教授は、アルツハイマーを3型糖尿病と表現しました。ただ、そのネーミングが1型2型の糖尿病と似た3番目の糖尿病のように誤解されてしまったので、最近は『脳の糖尿病』という言葉が使われています」

 糖尿病がアルツハイマーのリスク因子であることは以前から分かっていた。糖尿病患者がアルツハイマーを発症するリスクはそうでない人の2倍以上にもなる。

「最近分かったのは、糖尿病と深い関係のあるインスリンがアルツハイマーの発症と密接に関わっているという事実です」(広島大学名誉教授の鬼頭昭三氏)

 インスリンは血液中のブドウ糖が細胞の中に取り込まれたり、エネルギーとして消費されたり、蓄えられたりするのを促す重要な橋渡し役で、その結果として血糖値を下げる作用を持っている。そのインスリン作用に障害があることで、血糖値が上昇するのが糖尿病だ。

「インスリンの量に見合ったインスリン作用が発揮できない状態のことをインスリン抵抗性と言います。インスリンを出しても効かない状態になると、大量のインスリンが分泌され、高インスリン血症になります。この高インスリン血症が、アルツハイマーの大きなリスクとなっている」

 と、鬼頭氏は語る。

「健康な状態では、膵臓で作られたインスリンは、血液脳関門という、脳にある“関所”を通過して脳で作用する。ところが、インスリン抵抗性の状態だと、インスリンは血液脳関門を越えられず、脳まで届かない。インスリンは記憶を司る海馬などにブドウ糖を取り込む働きがありますが、インスリンが届かなければそれが出来ず、記憶力が低下する。また、脳の神経伝達物質であるアセチルコリンはブドウ糖で作られるため、インスリンが脳で上手く作用しないと、アセチルコリンの機能低下にも繋がるのです」

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