“ネットの普及”イコール“全員が使いこなせる”ではない(古市憲寿)

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 ツイッターで「5千万ユーザーを獲得するのにかかった期間」というグラフが話題になっていた。その表によれば、飛行機は68年、自動車は62年、電話が50年とのことである。人類史的に考えれば便利なテクノロジーが極めて短期間で普及したことの証拠だろうが、すごいのはここからだ。携帯電話は12年、インターネットは7年、YouTubeは4年、そしてポケモンGOにいたっては19日である。

 飛行機という巨大で複雑な機械と、ポケモンGOというアプリを同列に比較していいのかという疑問はあるが、目を見張るような便利な技術や、心躍るエンターテインメントが、スマートフォンとインターネットのおかげで一気に世界中に広がるようになったのは事実だ。

 しかしインターネットの普及は、全員がそれを使いこなせるようになったこととイコールではない。

 ある有名な小説家がエッセイで、イギリスの高級レストランへ行った時のことを書いていた。「予約が世界で一番困難といわれる」お店なのに、友人が「ウルトラ技で予約を入れてくださった」のだという。

 興味があったので、そのお店をインターネットで調べてみる。するとオンラインでも予約を受け付けていて、翌日でもランチなら大丈夫、さらに翌々日ならばランチもディナーも空いていた。

 確かに、その日に思い立って予約が取れるかはわからないが、「予約が世界で一番困難」というのは言い過ぎのように思う(予約をしてくれた友人の顔を立ててそう書いたのだろう)。

 インターネットがきちんと使えれば、「ウルトラ技」を駆使しなくても、だいぶ快適に世界を渡り歩くことができる。

 先日、著名な音楽家とドイツへ行った時のこと。はじめ、その人がいつも使う旅行代理店でホテルを予約しようとしたところ、1泊3万7千円だという。いくらハイシーズンとはいえ高すぎると思って、ホテル予約サイト「Booking.com」で調べると1泊2万円だった。

 インターネットがない時代は、海外のホテルを予約するのは一苦労だったはずだ。慣れない外国語を使って、高い国際電話をかけるくらいなら、旅行代理店に手配を頼むのは非常に合理的だったと思う。

 しかしホテル予約サイトを使えば、全て日本語で決済までできる。ホテルと部屋を選んでクリックをしていけばいいだけだから、ストレスもない。

 もちろん「ネットでは本当に予約できたか心配」という人もいるだろう。僕も今回、値段が違いすぎて不安になったので、ホテルにメールで確認をしてしまった。でもこれもそんな手間のかかることではない。外国語が使えない人も、グーグル翻訳などを使えば、メールの一本など簡単に書けてしまう。

 ネットを使えないことで、損をすることは本当に多い。ネットが苦手なセレブ向けの講習会でもやってお金儲けをするべきだろうか。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目される。著書に『だから日本はズレている』『保育園義務教育化』など。

週刊新潮 2018年9月27日号掲載

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