地方で「善戦」石破茂元幹事長に苦言を呈した甘利明氏の正当性

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善戦か健闘か

 20日に行われた自民党総裁選の結果は、事前の予想通りに安倍晋三総理の勝利に終わった。事前の予想と少々異なったのは、対抗馬の石破茂元幹事長の「善戦」ぶりだろう。

 50票程度と見られていた国会議員票では73票、さらに地方票では45%を獲得した。現職相手で、しかもほとんど他派閥の支援がない状況ということを考慮すれば、「善戦」と伝えられるのもおかしくはない。
 もっとも、新聞によってその表現はいろいろで、朝日新聞や毎日新聞のように「石破氏善戦」とストレートに見出しで打つところもあれば、読売新聞は政治部長名で「ワンサイドゲーム」「安倍首相の圧勝」としたうえで、石破氏について「健闘」と評している。いずれにせよ、総理側は「謙虚に」結果を受け止めるべきだ、という意見は目立つ。

 地方で安倍総理が圧勝できなかった理由についてはさまざまな見方が可能だろう。現役の閣僚や首相経験者からの圧力めいた発言、露骨な締めつけ等に嫌気がさした、アベノミクスに懐疑的だ、過去の選挙などで石破氏に何らかの恩義がある……。
 もともと、総裁選前から石破氏は「地方重視」を訴えてきたので、そうした姿勢が評価されたという面もあるのだろう。総裁選直前に刊行された石破氏の近著『政策至上主義』には、地方についての言及が実に多い。

「上場企業の数は日本に約4千社です。これは日本におよそ400万社ある企業の千分の1です。つまり、上場企業以外で働く人たちこそが日本人の大多数だと考えるべきであり、ここにダイレクトに効くような政策を考えなければ、国民一人一人の実感につながらないということです」

 これは総裁選中も繰り返していたロジックだ。それ以外にも、地方組織を大切にしなければ選挙では勝てないという点も強調している。

「私は民主党から自民党が政権をすぐに奪還した大きな原動力は、地方組織に雲泥の差があったからだと思っています」

 こうした考えから、地方の議員や党員が上京した際により使い勝手のよい党本部にし、地方と中央との連携を強化しよう、という提言もしてきたという。

甘利氏の苦言

 石破氏の「地方重視」が評価された、という点に対しては、厳しい意見もあるようだ。自民党の甘利明氏は、総裁選直後、BS日テレの「深層NEWS」に出演した際に、次のように「苦言」を呈した、と報じられた。

「近くで専門家として石破さんを評価できるのは国会議員です。国会議員が見ていると政策論でも、もうちょっとこうやればいいのに、と思う事がたくさんあるわけです。例えば地方が大事ですと言うが、じゃあ、どうやるんですか。
 地方が大事だったら、石破さん、あなたは鳴り物入りで地方創生担当相を2年やりましたよね。やったとしたら、地方がまだ駄目なんですよ、駄目なんですよ、だけで終わっちゃうとあなたが担当相だったでしょ、と言われちゃう訳ですよ」

 実のところ、「まだ駄目なんですよ、駄目なんですよ、だけ」という言い方には、個人的な感情あるいは悪意が含まれているようにも見えるだろう。実際には石破氏は『政策至上主義』などの著書で、地方創生担当相として実行したことに加えて、具体的な政策についても述べている。甘利氏は安倍陣営の中核的存在だけに、石破氏が地方で「善戦」したことを快く思っていない可能性は高い。

 また、甘利氏のようなスタンスそのものが地方の共感を得づらいかもしれない。地元が神奈川県である甘利氏がどう見ているのかは不明だが、誰が担当大臣をやったところで、2年で劇的に甦るほど状況は甘くない、というのは多くの地方の実感だろう。だからこそ、「地方に目を向けよ」と繰り返した石破氏に一定の支持が集まった。

 総裁選においても、前述の圧力めいた発言に代表されるように、総理周辺からは、応援の気持ちが強すぎるゆえか不用意な言動をしてしまい、結果として総理の足を引っ張ったケースが見られた。
 上から目線で苦言を呈する前に、その点は甘利氏も「謙虚に」受け止めたほうがいいのかもしれない。

デイリー新潮編集部

2018年9月22日掲載

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