「コンパクトシティ」のお手本シンガポールは本当に成功しているのか?

国際 2018年9月8日掲載

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地域再生の成功学(6)

 よく都市計画の成功例として挙げられるシンガポール。しかし、持続可能性という視点から見れば、じつはシンガポールは大変厳しい状況に置かれているという。

「今、シンガポールは出生率の低下と高齢者の激増に苦しんでいます。今後30年間の人口予測を見ますと、現役世代は横ばいで、高齢者だけが4倍に増える。サステナブルな状況でないのは確かです」と警鐘を鳴らすのは、かつてシンガポールに駐在した経験を持ち、現在は地域再生の専門家として活躍する藻谷浩介さん。

「人間をブロイラー化する都市構造が、少子化につながっている」と主張する藻谷さんに賛同するのは、都市再生プロデューサーの清水義次さん。日本各地で遊休不動産を活用したまちづくり「現代版家守」を展開する清水さんは、「まちづくりでは、生産活動と消費活動の場を分けないことが大事。大規模な機能分化をやると、都市の活力が失われてしまう」と指摘する。藻谷さんの著書『完本 しなやかな日本列島のつくりかた』(新潮文庫刊)に収録された2人の対談から、一部を再構成してお伝えしよう。

シンガポールが苦しんでいる理由

藻谷 言うまでもない話ですが、都市は都市だけで生きていくことはできません。都市が生きていくためには、周辺地域からのサポートが必要不可欠です。

清水 都市と言うのは、紀元前3、4千年にメソポタミアあたりで生まれています。1つの発明品として誕生したのではないかと思います。アラビア半島のイエメンあたりに行くと、都市の原型とおぼしきものが、ほぼそのままの形で残っています。山岳都市、城塞都市なんかは、常住しているのは最小規模で400人ぐらい。あとは周辺から訪れて来る人たちで構成されている。

藻谷 まさにコンパクトシティの原型ですね。現代の都市でも、コンパクトシティといえる部分に住んでいる人は、都市全体の人口の1割ぐらいですから。

清水 そして、その周辺にはカロリーとビタミンを供給してくれる農村地帯があり、さらには遊牧民が暮らせるかなり広い範囲の土地もある。なおかつ昔はエネルギー供給のための薪山も必要だった。だから我々が都市部だと思っているところだけが都市なのではなく、周囲の農村集落などと一体化したシステム全体を都市と呼ぶべきなんです。

藻谷 たまに、「いや、現代はカネさえあれば、農産物も水も外国から買えるから、周辺の農村は必要ない」と言い出す人がいる。ですが実際にそうやっているシンガポールを見て欲しいものです。今、シンガポールは出生率の低下と高齢者の激増に苦しんでいる。いくらお金があっても、都市生活に閉じ込められた人々は、子供を産まなくなってしまった。一生懸命移民を入れていますが、移民の出生率もすぐ地元民並みに下がる。国連人口部の今後30年間の人口予測を見ますと、現役世代は横ばいで、高齢者だけが4倍に増えます。サステナブルな状況でないのは確かでしょう。

清水 そうですね。

藻谷 日本の都市も多くはもう限界です。都市部でもない、かと言って農村集落でもない、ただ寝に帰るだけの中途半端な郊外ベッドタウンが広がる一方で、都心はただひたすら労働するだけの牢獄のような場所になってしまった。そして、週末は買い物をするだけの巨大モールに列をなす。人間をブロイラー化する都市構造が、生活を労働し消費するだけのものにしてしまい、家族とゆったり過ごす時間が失われ、それが少子化につながっている。

清水 そうやって大規模な機能分化をやると、都市の魅力が失われてしまうんです。旅行する人はわかると思いますが、「あっ、良い街だな」と思うのは、いろいろな機能が混在している街です。オフィスもあれば住居もある。生産活動と消費活動の両方が行われていて、どの時間帯でものんびり歩いている人がいる。そして、中心部に必ずリビング機能を持つ広場やストリートがある。

藻谷 住んだり、働いたり、食べたり、買い物したり、すべて歩いて動ける範囲内でやれる街……それって、まさに現代版家守が目指しているものですね。

 全国を回っていると、たまに小さな集落なのに「あっ、ここには都市性があるな」と気付くことがあります。たとえば宮崎県のとんでもない山奥にある椎葉村の中心部の上椎葉集落。集落自体には数百人ぐらいしか住んでいないと思いますが、お店や役所のあたりをぶらついている人がいて都市っぽい。小笠原諸島・父島の大村集落もそうです。1本しかない街路に少数ながらぶらぶら人が歩いていて、なぜか“都市”を感じる。

清水 それは、そこに住んでいる人が、企業や補助金にぶら下がらず、自立した生活を営んでいるからでしょう。前にも言いましたが、自立した人がどれだけいるかが、魅力的な都市の条件であり、サステナブルな都市の条件だと僕は考えています。だから家守でも、空き店舗にナショナルチェーンを入れたりはしない。チェーン店で働く人の割合を増やしても、街が面白くなるとは思えないから。潜在的に自立したいと考えている人に何かやってもらうことが、街の魅力を増やしていくことになると考えています。

地域再生の成功学(7)へつづく)

藻谷浩介(もたに・こうすけ)
(株)日本総合研究所調査部主席研究員
1964年、山口県生まれ。東京大学法学部卒。日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)、米国コロンビア大学ビジネススクール留学等を経て、現職。地域振興について研究・著作・講演を行う。主な著書・共著に、『デフレの正体』、『里山資本主義』、『藻谷浩介対話集 しなやかな日本列島のつくりかた』、『和の国富論』、『藻谷浩介さん、経済成長がなければ僕たちは幸せになれないのでしょうか?』など。

清水義次(しみず・よしつぐ)
(株)アフタヌーンソサエティ代表取締役
1949年、山梨県生まれ。東京大学工学部都市工学科卒。1992年株式会社アフタヌーンソサエティを設立し、主に建築や都市・地域再生のプロデュースに携わっている。現在、公民連携事業機構代表理事、3331 Arts Chiyoda代表も兼任。著書に『リノベーションまちづくり 不動産事業でまちを再生する方法』がある。