アジア大会「女子レスリング」金メダルゼロの惨敗 原因は「栄和人」前監督の不在

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東京五輪が危ない

 すでに予兆はあった。栄氏が試合前に謝罪会見をして大会中に解任された今年6月の全日本選抜選手権(明治杯)では、女子50キロ級準決勝ではリオ五輪48キロ級の金メダリストで至学館OGの登坂絵莉(24:東新住建)さえも自衛隊体育学校の入江ゆきに負けていた。

 今アジア大会、新聞などでは協会上層部の意向通り、「栄氏の不在が原因ではない」と強調されているがそうは思えない。

 昨年の秋や、パワハラ騒動後の今年5月にも筆者は練習を取材したが、栄氏の口からは選手に向けて「おい、こら、豚! どっち回ってんだ」など批判もされかねないような言葉も飛び出す。しかし、「あいつ、レスリングセンスは一番いいんですよ」と目を細めていた。選手が反発せず、ついてくるのは、信頼関係があるからだ。少し前、それもなく同じようなことを女子選手に言って問題視された柔道の男性コーチとは違う。私財をなげうって合宿所を作り、日常生活から細やかな心遣いで教え子らと接してきた栄氏は、理論や理屈だけで指導しているのではない。彼がセコンドにいるだけで選手たちは安心し、普段以上の力を発揮してきた。

 ロンドン五輪48キロ級で感動の優勝をした教え子の小原日登美(37:自衛隊)は栄氏について、「選手の個性や能力を見抜く力は他の指導者にはないものがあります。ものすごく神経が細やかで女性のようなところがあります」と語っている。

 栄氏は一人一人を実によく見ていた。筆者のインタビュー中も「ああーっ、そんなんじゃだめだ」とぱっと何度も立ち上がってはマットに行ってしまう。取材者など眼中にない。そんな彼だからこそ、「私は教え子に2度、手を付けた」(教え子と結婚・離婚し、別の教え子と再婚)などと言う、一見、破天荒な男を若い女性たちが慕ってきたのだ。

 今回の不振について、ある協会関係者はこう語る。

「栄さんを失った全日本の練習を見ていても覇気が全くない。きちんと練習しているのかもしれないけど、ただそれだけで気迫が伝わってこないのです。笹山(秀雄)強化委員長(50)もリーダーシップが弱く、誰がトップかわからない。栄さんは現場にいるだけでも選手の表情が違うんです。それがなくなってしまえば、もう東京五輪の女子レスリングは危ないですよ」

 栄氏の力は、勝つ空気を生み出すことだ。優れた理論を持っていても、誰かが取って代わってできるものではないのだ。この関係者はさらに「パワハラ騒動で指導者が委縮してしまい、選手に厳しいことを言わなくなったのも大きい」と言うのだ。

 パワハラ騒動の影響は実に大きい。

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