監督たちのバイブル『甲子園の心を求めて』をめぐる物語 部員に根付いた“全員野球は哲学”

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最高のランニング

 宮本秀樹さん(60)=現・都立片倉高監督=も『甲子園の心を求めて』に影響を受けて教員そして監督を志した。20代後半、都立野津田の監督だった宮本さんは、東大和の練習を見せてもらおうとグランドを訪れたことがあった。

「東大和市駅から歩いて学校に近づいたところで、地鳴りのような音がグランドの方から聞こえてきました。走り寄ってそれが野球部のランニングだとわかったとき、鳥肌が立つほどの興奮を覚えたのを昨日のことのように思い出します」

 イチ・ニ・イチ・ニのかけ声で足をそろえ、直線を往復する。途中「気合を入れていこう」とか「元気だして」なんて声がかかる。声を出す者は必ずしも決まっていない。目をつぶっていても「イチ・ニ」の声とザッザッというスパイクの音を聞けば、チームの状況がわかるような気がした。

「ある試合に負けた後、道輔監督が選手に“いまチームに最も必要なものは何か? 考えて練習をやれ”と投げかけると、主将と副主将が相談し、そのランニングを始めたそうです」

 学生コーチから「こんなランニングが東大和のランニングなのか」の声、「いえ、まだまだ」、永遠に続くのではないかという雰囲気、1時間を超える。学生コーチから「ラスト本気で声を出して、心をひとつにして納得がいくランニングができたら終わり」の声。

「道輔先生いわく、“このランニングスタイルは、全体としてひとつにまとまっていながらも、その中で一人ひとりが自己主張をしている、最高のランニング”とのことでした」

 都立東大和は出版の3年後、昭和53年春の東京都大会に準優勝、夏の西東京大会でも決勝に進んだ。日大二高に15対10で敗れたが、〈都立の星〉と呼ばれるようになった。昭和60年にも決勝に進出、日大三高に5対2で敗れ、またも甲子園に届かなかったものの、確かな実績を重ねた。

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