監督たちのバイブル『甲子園の心を求めて』をめぐる物語 部員に根付いた“全員野球は哲学”

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監督たちのバイブル『甲子園の心を求めて』をめぐる物語――小林信也(1/2)

 今年で100回目を迎える“夏の甲子園”。さて、貴方はご存知だろうか。高校野球の指導者たちが“バイブル”として愛読している一冊の本があることを。『甲子園の心を求めて』――幻の名著に導かれた男たちの奇跡の物語をスポーツライター・小林信也氏が綴る。

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『甲子園の心を求めて』(報知新聞社刊)という本がある。“幻の名著”と呼ぶべき一冊。昭和50(1975)年6月に発行され、4年後には新版と続編も出版されたほど人気を得た。

 著者は、都立東大和高校監督(当時)の佐藤道輔さん(故人)。初任校の都立大島高の野球部員や父母たちとの熱い挑戦の日々が具体的なエピソードとともに綴られている。離島にある大島高が大会に出るには船で本土に渡らねばならない。日々の暮らしに追われる島人たちの理解も薄い。毎日練習ばかりさせないで、少しは家の手伝いをさせろと怒鳴り込んでくる父親がいた。厳しい家庭の事情を知る選手は、野球への情熱を持ちながらチームから遠ざかり家業を手伝う。練習に来ない選手のアルバイト先まで道輔監督はノックバットとボールを携えて行き、空き地を見つけてノックを打つ、野球への情熱を絶やさないために……。といった、熱烈な監督の姿、生徒・父母との交流を綴った手記だ。

 佐藤道輔さんは、〈はじめに〉でこう書いている。

〈私は、あの華やかな舞台の甲子園だけでなく、もっと本当の意味での甲子園像が、ほかにあるような気がしてならないのである。全国に2600を越える高校野球のチームの多くは、甲子園をはるかに遠くにして敗れ去って行く。しかし地方予選の1回戦に敗れていったチームの中にも真の甲子園の心を求めたチームがあるはずではないのだろうか〉

 この本が、“甲子園”を目指しながらもやもやしていた多くの監督、球児、元球児たちに波を起こした。

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