枝野代表の大演説は「フィリバスター」ではなかった 本家アメリカのひどすぎる議会戦術

政治2018年8月2日掲載

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枝野代表の日本記録

 閉幕した通常国会で、立憲民主党の枝野幸男代表が一つの日本記録を打ち立てたことはニュースでも報じられた。
 連続ズル休み日数、ではない。

 衆議院での演説時間で、これまでの2時間6分を大きく上回る2時間43分だったのだ。
 この長時間演説について、アメリカ議会での「フィリバスター」と同一に伝えていたメディアもあったし、ひょっとすると枝野氏の脳内にもそうしたイメージがあったのかもしれないが、これは実のところ間違いあるいはカン違いというものだろう。
 というのも、フィリバスターはそもそも議案審議を遅らせるための抵抗戦術。しかし枝野氏が行っていたのは自ら提出した内閣不信任案の趣意説明だから、それに抵抗して議案審議を遅らせることに積極的な意味を見出すのは難しい。
 本来のフィリバスターとはどういうものか。
アメリカ出身の法学者であるコリン・P・A・ジョーンズ氏の著書『アメリカが劣化した本当の理由』を抜粋、引用しながら見てみよう。

話を打ち切ってはいけないというルール

 フィリバスターの舞台となるのは、連邦議会上院。任期が6年で2年ごとに3分の1が改選される仕組みだから、日本でいえば参議院に近いイメージだ。
 結果として、一時にメンバーが更新されることがない上院には、昔ながらのルールが残っていることがある。そうした古いルールの1つが、
「上院議員が議会のフロアで話を始めたら、どんな内容であろうが自らやめない限り、原則として打ち切ることができない」
 というものだ。
「下院には、審議日程の決定など様々な権限を付与された議長がいるが、上院の場合は、そのような強い権限を持つ役職は存在しない。
 加えて、上院は“紳士クラブ”であるという建前から、他の議員の話を『もういいから黙れ』と遮ることのできる議事進行役もいない。というわけで、ひとたび上院議員がしゃべりだすと、その人の体力が続く限り、議案審議の進行が麻痺してしまうのだ。日本でかつて野党がお家芸としていた、『牛歩戦術』より強力なものだ」

 この武器は上院議員なら誰でも(その気になれば)使える。戦前の名画「スミス都へ行く」では、正義感あふれる主人公のスミスが、不正立法の阻止のためにフィリバスターを用いて、見事に目的を達する。もしかすると、枝野氏も、こうした姿に憧れたのかもしれない。少なくとも、今回の長時間演説を「フィリバスター」と称して前向きに評価していた人たちの念頭にはスミス氏がいた可能性はある。

料理のレシピ朗読でもいい

 ただ、ジョーンズ氏によれば、フィリバスターの実態は映画とはかなり違うことも多いようだ。
「実際に行われるフィリバスターの目的は、そこまで立派でない場合が少なくない。たとえば1960年代には、公民権運動(特に黒人の社会的地位向上のための運動)に関連した立法を阻止するために使われることがあった。
 公民権運動に寄与するため、ではなく、邪魔するため、である。
 1992年には、ニューヨーク州の上院議員が州内のタイプライター会社を助けるための法案をめぐって、なんと15時間14分のフィリバスターを決行した(トイレ休憩も無し!)」

 そもそも「演説」とは言えないレベルのものでもいいようだ。
「フィリバスターにおいて上院議員がしゃべる内容も、さほど素晴らしいものではない。とにかくしゃべっていれば良いのだから、料理のレシピを朗読したっていい。
 合衆国の上院議員が議場で歌っている様子が、テレビで流れたこともあった。
 政治とはどこでも情けないものなのだ」

 一応、上院のルールでは、5分の3の議決があれば議員の話を中止されることができる、とされている。問題は、上院は常に民主党と共和党が拮抗していて、その5分の3を与党が獲得している状態は滅多にないという点だろう。
 当然のことながら、こうした手法はアメリカにおいても別に賞賛を浴びているわけではない。実は下院でもかつてはフィリバスターが起きていたが、160年ほど前にルールが改正されてできなくなった、とのことである。

デイリー新潮編集部