今夏ドラマに学ぶ、“長女型”女性のビジネス婚のススメ

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 恋愛結婚と長女。うなぎと梅干しのように、一見問題無さそうだが食い合わせの悪い組み合わせに、今夏のドラマが下した答えは「結婚は仕事の一環としてとらえよ」であったようだ。

 日本テレビ「高嶺の花」、「サバイバル・ウェディング」の主題は、いずれも結婚間際で男性に逃げられた長女の、結婚をめぐる戦略的な恋愛について。TBS「この世界の片隅に」では、会ったことさえおぼろげな男に請われて嫁ぐ長女が主人公である。テレビ朝日「ヒモメン」は、やはり“長女型”のしっかり者の女性が、ヒモ体質の彼との結婚を夢見てあれやこれや奮闘するコメディである。

 責任感が強く頑張り屋、他人に弱音を吐かず不器用といった、いわゆる“長女型”のヒロインは、もはや単純な恋愛ドラマの主人公としては魅力がなくなってきたのかもしれない。明るくまじめに、人知れぬ努力を重ねて報われる恋、というシナリオには、素直に感情移入しにくい。実際の恋愛市場では、一生懸命さや健気さよりも、ぱっと見の若さや美しさ、愛嬌に軍配が上がることも少なくないからだ。そんな現実に直面してきた“長女型”の女性たちにとって、「仕事の一環としての結婚」というテーマは、リアリティのもてる選択肢のひとつになりうるのではないだろうか。

勉強はできても、恋愛ができない“長女”たちの救いは

 2016年に社会現象にまでなった、「逃げ恥」の大ヒットが語るのは、ビジネスとして始まる結婚の意外な豊かさである。女としての幸せよりも、家門に殉じた女性を描いた「おんな城主 直虎」の脚本家が、今まさに「義母と娘のブルース」で、職業上の知見をそのまま結婚・育児生活に活かそうとする堅物のキャリアウーマンを描いている。

 交際期間や恋愛感情すら持たず、ひとつのビジネスとして結婚をするという選択。それは一見ドライに見えるが、まじめで不器用な“長女型”の女性にとってはとても居心地の良いものであるはずだ。どんな振る舞いが正解になるかわからない恋愛に比べて、求められる領域や役割が明確だからである。恋愛はまじめに向き合っても、求める結果になるとは限らない。そんな時あとに残るのは徒労感と自己否定であることを、彼女たちは嫌というほど知っている。つい最近結婚を発表したフリーアナウンサーの小林麻耶も長女だが、明石家さんまが「結婚したければ頑張りすぎが見えないよう頑張れ」とアドバイスしたという。長女型の女性にとっての、けだし名言だと思う。

 一方でビジネス婚は、まじめにやればやるほど成果が出る。さらに、自己承認だけでなく、異性とくつろぐ時間も手に入る。自分の女性性を売りにできない、可愛げで測られることが苦手な長女型の女性にとっては、いいとこ取りの結婚スタイルなのである。

 人を愛し、愛されることのひとつのゴールとしての結婚から、ビジネスとして貢献する結婚のかたちへ。それは厳しい現実の映し鏡に見えて、“長女型”の女性たちにとっては、本当は極上のおとぎ話の誕生なのかもしれない。

 シンデレラしかり、美女と野獣しかり。かつておとぎ話では、ハンサムな王子と幸せな結婚をするのは末っ子と決まっていた。長い年月を経て、長女が幸せな結婚をする新しいおとぎ話がどう根付くのか楽しみにしたい。

 ただ皮肉なことに、演じる女優は石原さとみ、松本穂香、川口春奈など、みな現実では兄や姉がいる末っ子たちばかりである。ひとたびドラマの役柄を離れれば、いつも伸びやかで屈託がなく、男性人気も高い女優だらけ。もっと要領よくやればいいのに、恋愛なんて自由が一番なのに、とうんざりしながら演じているかは知らない。しかし重たい長女像を軽やかに演じる彼女たちに、本当の長女たちが決して手にし得ない要領の良さを見る。そのたび、まぶしさとちょっぴり敗北感も感じてしまう。私自身も、まさに恋愛下手な長女であるがゆえに。

(冨士海ネコ)

2018年8月1日掲載

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