既婚女性の心模様を丁寧に描く「官能作品」に興味津々「ダブル・ファンタジー」(TVふうーん録)

芸能 週刊新潮 2018年7月12日号掲載

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 今の自分の状況を客観的に把握するのは至難の業(わざ)だ。周囲から見れば仕事も家庭も順風満帆、そこそこの幸せを掴んでいるように思われる。実は体の奥にとても小さな異物を抱え、脳内に違和感が生じていても、「別にたいしたことじゃない」と自ら打ち消し続けてきた。ところが、些細なきっかけで異物は急激に膨らみ、違和感は嫌悪感、そして絶望へと変わっていく……。既婚女性の心模様が丁寧に描かれていく、WOWOWのドラマ「ダブル・ファンタジー」に興味津々である。

 大胆な官能作品で、性的なことばかりがクローズアップされてしまうが、これは明らかに「女の精神的自立」を描いた物語だ。セックスはその手段にすぎず。

 主役を演じるのは水川あさみ。新進気鋭の脚本家で、話題のドラマを執筆している。夫は元テレビ局ディレクターの眞島秀和。庭に菜園を作り、鶏を飼い、田舎暮らしを送っている。眞島は仕事を辞めて、専業主夫となり、水川の執筆を支えている。「あら、素敵なダンナ♪」なんて思ってはいけない。眞島は水川を束縛し、支配しているのだ。男でも、オスでもなく、鬱陶しい保護者と化している。

 鬱陶しいのは眞島だけではない。実母の多岐川裕美はいわゆる毒母で、頻繁に訪れ、前近代的な妻の役割を滔々(とうとう)と説き、さらに不妊治療まで強要。美しくなった娘に「気持ち悪い、色気づいて」と平気で言い放つ。

 支配してくる親や配偶者に、水川は心底嫌気がさしてくる。でも、支配に慣れきった人は無意識に同様の人間に近寄ってしまうのだ。

 尊敬する師匠であり、舞台演出家の村上弘明(無差別級スケコマシ)に、自ら性的アプローチをする水川。大胆な行動には現状打破の覚悟と決意が感じられるが、一方で人に隷従しがちな不安定さも表情に表れている。村上との距離の縮め方もやや病的で鬱陶しい。支配されやすい女の特性を、水川が実に繊細に演じている。

 村上とのセックス(態度はドSな割に中身は案外普通な正常位)を機に、水川は心の扉と股を大胆に開いていく。それが「解放と自立」へ繋がる。水川が主語を取り戻す過程が心地よい。

 夫・眞島に見切りをつけ、捨てる。逃げるのではなく捨てて、東京で新生活を始める水川。自分の好きな家を借り、好みの家具を購入し、今までは些細なことでも夫に許しを得ていた自分に気づくシーンが印象的だ。

 仕事で再会した昔の男・田中圭ともセックスをして、自由と快楽を満喫。しかも、田中は昔より床上手になっていたという幸運と興奮。逃した魚は出世魚だった!

 今後の展開では、若手俳優(柳俊太郎)とも関係していくそうだ。抑えきれない性欲の果てに、水川は何を見出して、何を得て、何を失うのか。楽しみである。

 重要な人物がもうひとり。親友役の篠原ゆき子は、水川の行動に対して「ブレーキ&ブースター」の存在だ。時に罪悪感を促し、時に背中を押す。「あれこれ言うても自主性を重んじる」大人の友達が必要なんだよね。原作の続編もぜひ同じメンバーでドラマにしてほしい。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。