記者たちが語る「オウム捜査」秘話 「麻原」はいかにして追い詰められたか

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幸福の科学が現場を目撃

警視庁担当: 目黒公証役場の假谷さんがオウムに拉致されたのが2月28日ですからね。実は、この日、警視庁の捜査一課長が交代して、新しい課長が着任したばかりだったんです。あとから捜査員たちは、「新課長はすごく強い運を持ってるなぁー」と感心していました。というのも、それまで、オウムは都内では事件を起こしていなかったから、警視庁には捜査権がなかった。それが、着任の日に事件が起きた。周囲はビックリで……。

遊軍キャップ: もう一つ不思議なのは、假谷さんの拉致事件の第一報を110番通報したのが幸福の科学の信者だったという話でね。警視庁の捜査官から聞いたから間違いないはずだけど、なぜ、幸福の科学が現場を目撃したのかがよくわからなかった。偶然にしてはできすぎだし……。

デスク: あの頃は、オウムと幸福の科学が、テレビで大論争をして、犬猿の仲だったから、幸福の科学がオウムにスパイを送って、犯罪を通報していたという話まであったけど……。

警視庁担当: 事件の3~4年後にやっとその訳がわかったのですが、どうも、近所で幸福の科学の信者の引っ越しがあって、友人の信者が手伝っていたそうなんです。その帰り道に「助けてくれー」と叫んでいる年配男性がワゴン車に連れこまれる現場に遭遇した。その信者は最初、錯乱している人を病院に運ぶのかなと思ったらしいんですが、ワゴン車が走り去った後、黒い毛糸の帽子が落ちているのを見て、ピンときて110番した。

デスク: 捜査一課長の運気かどうかは知らないが、この拉致事件では、他にも最初からいくつも警視庁に有利な偶然があった。まず、拉致したレンタカーから出てきた指紋がオウムの信者のものだとすぐにわかったのは、運転手が前の年に、「尾崎豊を殺したのは誰だ」っていうビラを足立区で電柱に張っているところを軽犯罪法で取り調べられていたから。それから、拉致事件の10日ほど前にも、この運転手がレンタカーの「わ」のナンバーを、白いテープで「つ」に偽装して目黒付近をドライブしているところを警察官に職務質問されていた。このとき、オウムの運転手は、「恋人とデートなので、レンタカーなのが恥ずかしかった……」と上手に嘘をつくんだけど、こんな偶然が重なって、オウムは窮地に立たされてしまったわけだ。

アメ横の「ガスマスク」

遊軍キャップ: それで焦った麻原教祖が強制捜査を妨害しようとして、考えたのが地下鉄サリン事件だったわけです。だから、假谷さん事件の犯人特定にもっと時間が掛かっていたら、別の展開になっていたかもしれないのです。

現場カメラ: 地下鉄サリンの日、僕らは何とか霞ケ関駅にたどり着いて、まだ何が起きているかわからなかった。でも、機動隊員が「マルサの可能性、あり」と叫んでいたのを耳にしたんです。この符丁は普通、催涙ガスをさす言葉で、そのまま社に報告の電話を入れたら、年配の上司が電話に出て、「バカ野郎、催涙ガスで人が死ぬか。こんなに死人が出るか」って……。上司は学生運動の経験者で、催涙ガスのこともよくわかっていたんですね。

デスク: 最初は誰も地下鉄にサリンという発想がなかった。警視庁で一課長の記者会見があったのは午前11時で、課長が「サリンの可能性が高い」って言ったときも、記者たちは疲れもあって、特に質問もしないでぼーっとメモを取り続けてた。課長が「サリンですよ。いいんですか。本社に連絡をしなくて……」と、促すまで、事の重大さに思い至らなかった感じ。

遊軍キャップ: で、翌々日が強制捜査。怒濤の勢いで何千人もの警察官が上九一色村と全国のオウムの施設に押し寄せた。カナリアを先頭にして、迷彩服、防毒マスクの機動隊が突入した事でわかるように、警察はオウムが大量のサリンを隠していて、それを使って反撃してくることを予想していたんです。機動隊員の中には、奥さんと水盃を交わして現場に来た連中もいたくらいでしたよ。

現場カメラ: それはカメラを構えて待っている我々も同じでした。サリンが怖いから、各社、上野のアメ横かどこかで買ってきた米軍払い下げのようなガスマスクをお守り代わりに持ってきていたり、酸素ボンベを用意していたり……。

警視庁担当: NHKは最初、最前線に置いているカメラを離れた車の中から遠隔操作して撮影していた。周りでも、変な臭いがしたら、すぐにガスマスクを被れとか言っていたけど、後から考えると、サリンは無色無臭。気づくはずがないんですよね

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