ミツバチが急に消えるのはなぜか オバマ大統領も警鐘 一方トランプ政権は……

国際2018年6月21日掲載

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 米国では近年、商業養蜂家が管理する巣箱から大量の働きバチがいなくなるという不思議な出来事が相次いでいる。最大で90%のミツバチを失った養蜂家もあるといい、「蜂群崩壊症候群(CCD)」と呼ばれている。

 ミツバチによる受粉に依存している作物は、リンゴやオレンジなどのフルーツ類、キュウリやカボチャなどの野菜、アーモンドなど多岐にわたる。全食品の3分の1にミツバチの媒介が関係しているとされる。つまり、ミツバチが減り続けると、農業に深刻な影響が及びかねない。

 時事通信のシカゴ駐在記者として4年間、アメリカ農業を見つづけてきた菅正治氏は、著書『本当はダメなアメリカ農業』の中で、ミツバチ消滅の犯人を追及するアメリカの様子を描いているが、菅氏は、「この問題の背後には、アメリカ農業を蝕む深刻な『生物多様性の喪失』という問題があります」と述べている。

オバマ大統領、タスクフォースを設置

 オバマ前大統領は、ミツバチの消滅を「国家的な課題」ととらえ、2014年6月にビルサック農務長官とマッカーシー環境保護局(EPA)長官を共同議長とするタスクフォースを設置した。これに基づき、2015年5月には何と「ミツバチの健康を促進するための国家戦略」が策定された。
 
 国家戦略では、ミツバチの大量死について「1つの要因ではなく、さまざまな要因が複合的に絡み合っている」と分析。具体的には、殺虫剤やその他の有害物質、ミツバチのエサの不足による栄養不良、ミツバチヘギイタダニをはじめとした害虫、ウイルスや細菌などによる病気を挙げている。
 一方、世評で「主犯の本命」との呼び声が高かったネオニコチノイド系殺虫剤の影響は明言されず、示唆される程度に止まった。

 ネオニコチノイド系殺虫剤は、バイエルやシンジェンタといった農薬メーカーが多く扱っている。従来の殺虫剤に比べ、人間や環境への悪影響が小さい上、害虫を効果的に駆除できるとして、全世界で急速に普及した。いわば「殺虫剤のベストセラー」だ。
 米国ではスプレーで散布するのではなく、ほとんどは種子に殺虫剤を付着させ、生育の初期段階の作物を害虫から守るのに使われている。

 当然、バイエルなどの農薬メーカーは、ミツバチ消滅について、ネオニコチノイド系殺虫剤主犯説には否定的なのだが、「主犯説」を示唆する研究もある。

 ヨーク大の研究グループは、ネオニコチノイド系殺虫剤が使われているカナダのトウモロコシ農場に近いミツバチのコロニーと、農地から離れたコロニーの両方で、5月から9月にかけて実地調査を行った。この期間はミツバチの活動がもっとも盛んな時期となる。調査の結果分かったことは、ミツバチが集めた花粉の中でネオニコチノイド系殺虫剤が含まれているものは、種子に付着させて使われているトウモロコシや大豆ではなく、使われていないはずの他の作物から集めたものということだった。

 要するに、トウモロコシや大豆の農場から殺虫剤が流出し、他の作物に吸収され、それをミツバチが摂取していた、ということだ。研究グループは、「自然界で実際に生じる水準のネオニコチノイド系殺虫剤にさらされると、働きバチや女王バチは早く死んでしまい、コロニー全体の健全性も損なわれる」と結論づけた。

 EPAは国家戦略が公表された後、作物の受粉期に限り、農地でネオニコチノイド系を含む殺虫剤の散布を禁止する方針を示した。「主犯」と断定するほどの科学的根拠は見いだせないが、疑う余地は充分にあると判断したのだろう。

トウモロコシ畑が増えすぎた?

 ただ、野生のミツバチ減少の理由として、アメリカ農業に特有の理由を指摘する研究もある。それは「トウモロコシ畑の増えすぎ」である。トウモロコシを原料とするバイオエタノールの需要増加に伴い、トウモロコシ畑に転作される畑が急増したのだ。

 トウモロコシでは、9割以上が遺伝子組み換え作物である。バイオエタノール用なら、遺伝子組み換えであろうが農薬を使おうが問題はない。広大な農地で機械化したアメリカ農業のスタイルにぴったりだし、実際に単位面積当たりの収穫量は世界最大だ。

 菅氏はこう述べる。

「ミツバチはトウモロコシに巣を作らないし、トウモロコシの受粉にミツバチは必要ない。トウモロコシ畑が増えれば、ミツバチが生息できない環境がどんどん増えていくことになります。かくして、ミツバチが受粉を媒介する作物は減少し、結果として生態系から多様性が失われ続けることになってしまっている」

 さらにミツバチを追い詰めているのが、政権交代だ。トランプ政権はオバマ政権と異なり、環境問題への関心は薄い。実際に農務省やEPAの予算を大幅に削減している。アメリカが消えていくミツバチの告げるメッセージと正面から向き合うのはいつになるだろうか。

デイリー新潮編集部