揃いも揃って全員“怪物”の不倫ドラマ「あなたには帰る家がある」(TVふうーん録)

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 W不倫ドラマは、ついエキセントリックな人物だけクローズアップする傾向がある。「奪い愛、冬」の水野美紀、「あなたのことはそれほど」の東出昌大、「ホリデイラブ」の松本まりか、とかね。寝取るも寝取られるも、常軌を逸した人達がより濃厚な残像となり、主役が霞むという宿命もある。

 ところが「あなたには帰る家がある」は、2組の夫婦がそれぞれ濃い味付けとなっている。主役が霞む・主役を食うという事態に陥っていない、珍しい作品だ。

 妊娠を機に専業主婦となった中谷美紀。大雑把だが、家事と娘の教育に尽力してきた。娘も中学生になって、職場へ復帰することに。

 夫の玉木宏は不動産営業マンだが、成績は芳しくない。家事も育児も妻任せ。本当は大好きな映画を観て、ビール飲んでだらだらしていたい。口うるさい妻の話を聞くときは、首をコキッと捻(ひね)ってスイッチをオフる。

 そんな、よくある夫婦(ま、超絶美男美女だけどな)が、仕事上関わってしまったトンデモ夫婦のせいで、家族の危機を迎える物語だ。

 トンデモ夫婦の夫は、ユースケ・サンタマリア。パワハラ・セクハラ・モラハラ体質に男尊女卑を詰め込んだ教員である。妻の木村多江は、楚々として、三歩下がってついていく系の女。

 ユースケは妻の人権を長期間迫害中。「親父とお袋と息子は俺の家族」「誰のお陰で生きてると思ってるんだ」なんて、平然と言い放っちゃうクソ夫。そんな生活に長年耐えてきた多江は、ある日玉木と出会って恋に落ち、自分から粉かけまくり、やがて怪物と化す。

 ユースケだけがエキセントリックなクソ夫として牽引するかと思いきや、多江も初回から気色悪かった。暴君夫に心を壊されたというよりも、生来の寄生&捕食体質。それが画面から漏れ出るのを肌で感じた。

 私だけじゃない。視聴者も、劇中の女たちも皆、多江の不気味さに気づいている。ユースケの母・梅沢昌代は「あの女、相当なもんだよ」と積年の恨みを吐き出す。玉木の部下・高橋メアリージュンも「一番手を出しちゃいけないタイプですよねー」と。決して近寄るなと、女は一丸となって訴える。ところが男どもは誰も気づかない。多江の息子だけが母の蛮行に気づいているという皮肉。

 ユースケ&多江の怪演スタートダッシュで、周囲が霞むかと思ったが、中谷も玉木も負けていなかった。

 中谷は夫に浮気され、浮気相手の多江からも宣戦布告&嫌がらせを受け、泣いたり怒ったりで大忙し。感情を爆発させた後、前向きに事を進める強さも明るさもある。要領の悪い女だが、ひとり感情乱高下を熱演。

 玉木はとにかく修羅場から逃げまくる姿が、格別に情けない。自分で尻拭いできないうえに、往生際も悪く、まさに「外見だけの男」を好演。長年にわたって各種のダメ男を数々こなしてきた集大成が、ここにある。

 中谷と同様、夫に浮気されて離婚した実母・丘みつ子の言葉が意外と深い。「離婚届を出した後、空が青いと気づいた」。心の健康って、そういうことだよねぇ。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2018年6月14日号掲載

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