真剣さが逆に笑えてくる「ズッコケドラマ」2作 「ブラック・ペアン」「モンテ・クリスト伯」(TVふうーん録)

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 お金をかけて大々的に宣伝し、人気俳優や有名人・芸能人をこれでもかこれでもかと投入し、最高のエンターテインメントを。そんな意気込みをしかと受け止めた。毎週おおいに笑わせていただいております。

 え、だってギャグドラマでしょ? 悲劇風コントなんでしょ? ものすごく真剣に作った笑いの祭典なんだよね? という作品が2本。「ブラックペアン」と「モンテ・クリスト伯」だ。

 医療ドラマで定番の、不躾(ぶしつけ)で不機嫌で、暴言吐きまくる医師が大活躍。明らかに若造に見えるが、神の手を持つ外科医役の二宮和也。

 最初は研修医の竹内涼真が主役かと思った。何回か観ているうちに、新種の機械を必死で汎用化しようとする、不器用な医師の小泉孝太郎が主役かと思った。

 でも、どんな難しいオペでも、暴君ニノにお・ま・か・せ。やたらと患者は大出血。「助けられるのはあの人しかいません!」っつって、病院に住みついているニノを探しに行く。ファインディング・ニノ。この病院にまともな医師はいない。人命軽視、意地悪優先。名誉と地位と金が最重要課題。劇中でニノも言っていたけれど、「この中にお医者様はいませんか~」状態。

 ドクターXを超える荒唐無稽を笑えばいいのね。なんだかんだ言って、結局は視聴率をかっさらうテレ朝に対して、TBSのオマージュ&リスペクトと思えばいいのよね。もはや医療ギャグドラマ。新しいよね。

 もう1本。「モンクリ」。略されたらネットゲームのようなタイトルからして疑問だが。豪華絢爛(けんらん)なキャストで壮大な復讐劇と聞いていたが、ある一点を突破できずに、今か今かとコントのオチを待っている状況だ。

 主演はディーン・フジオカ(鴻毛(こうもう)のごとき軽さの歌声は、もはやいじるのも気の毒)。自分を陥れた人間に、別人となって復讐するディーン。そもそも寂れた漁港の漁師だったディーンは、自分の結婚式の日にテロリストとして逮捕されてしまう。外国の離島に幽閉され、拷問を受け、変わり果てた姿に……って、変わってない!! ヒゲ生えただけで何も変わってねぇ!! それなのに、誰一人気づかない。疑(うたぐ)り深く、人を一切信用しない新井浩文も、警視庁の刑事部長・高橋克典さえも気づかないなんて!! 巨万の富をもつ投資家の体だが、声も顔もディーンそのまんまやんけ。

 復讐される側の人間が誰もディーンの正体に気づかないという、この一点がどうしようもなく、このドラマをお笑いに変えてしまう。

 当初、そこは寛容になろうと思っていた。でもこの後、全員気づくときが来るわけで。「お前は……まさか、サイモンダンか!!」となるわけで。ドリフのように予期させることで起こる爆笑をお約束。古典名作を悪用した壮大なコントだ。

 両作品とも登場人物が無駄に多い割に、中身は限りなく薄い。せっかくの怪優たちの出番を、あっという間の瞬間芸で終わらせてしまったり、枠にはめてしまう罪深さ。ああ、もったいない。でもこんなご時世、笑いも時には必要だよね。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2018年6月7日号掲載

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