栃ノ心、大関になっても徒歩通勤 夕暮れの交差点で談笑

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 両国の街角、夕暮れの交差点でお相撲さんたちが何やら談笑。よく見りゃ白い浴衣姿は栃ノ心じゃありませんか。先の夏場所で13勝2敗。晴れて大関昇進を決めたその人だ。

 1月の初場所では平幕ながら14勝して初優勝。どこだか知らないジョージア出身、だが風貌は誰もが知ってる俳優のニコラス・ケイジ似ときたもので、とたんに人気に火が付いた。

 国技館と春日野部屋のあいだ600メートルほどの距離は、いつも徒歩で行き来する。群がるファンに対しては、随行役の付け人たちが「サインはごめんなさいね」と謝りながら歩くのが常だ。かくて栃ノ心の「徒歩通勤」は、界隈ではおなじみの光景となった。

 もちろんサインに応じることもよくあって、気さくな性分なのである。写真の5月20日、中日(なかび)はとりわけ機嫌がよかったようで、それもそのはず。ここまで土つかずの8連勝で勝ち越しを決め、しかも無敗は幕内で1人だけの単独首位。部屋へ引き上げる道すがら、信号待ちの合間に見せたのは、自信みなぎる充実した表情だった。

 ただし、ご存じのとおり、優勝は叶わなかった。

 注目の千秋楽。栃ノ心は12勝2敗、横綱・鶴竜は13勝1敗で迎えた。鶴竜が最後の取組で「負け」ると2敗となり、2敗を守った栃ノ心との優勝決定戦にもつれこむこともあり得たが、結果は「勝ち」。その時点で優勝を決めた。相手力士は白鵬だった。

「白鵬は、鶴竜を優勝させるために、わざと負けたんだろ。モンゴル互助会の助け合い、やらせじゃないの」

 なんてことを、ゆめゆめ栃ノ心は口走ったりなどしない。鶴竜対白鵬戦を、

「どきどきしながら見てた。12連勝して優勝できなかったのは残念よ」

 と言い、大関になる心境を問われて、

「やること、変わらないですよ」

 そう殊勝に答える。大関以上は東京場所では地下駐車場まで車で通勤できますよ、と水を向けられると、

「歩いてくるよ、近いのに変でしょ」

 徒歩通勤も止めないと言う。歩みの先にモンゴル勢という難敵が立ちはだかろうと、鷹揚なこの人はとことんマイペースらしい。

週刊新潮 2018年6月7日号掲載

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