私も英語で漫画ブログやろうかしら(中川淳一郎)

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 先日「ライター交流会」というイベントで司会をし、最後のまとめをしたのですが、概ねこんな感じでした。

「今年はウェブの広告費用がテレビを超すのでは?という予測もあり、現在、ウェブメディアには大量のカネが流れている。それに伴い、ライターのギャラも上がっているし、ウェブ上では文字に対するニーズも高まっている。記事風広告の発注も今は増えているが、それはウェブの広告効果が過大評価されているから。1PV(アクセス)で50~100円、みたいなことがまかり通っているが、はたして1人に広告1回見せてその値段だとしたら1000万人が見ている15秒CMは5億~10億円もするか? といえばそんなことはない」

 ここに始まり、結局ウェブ広告にカネを払っている人々は日本人特有の「バスに乗り遅れるな」的にネットに広告を出さなくてはマズい!と焦って過剰にムダ金を使っているだけだという現状を説明しました。ウェブで稼ぐライターはこの過渡期のドタバタ劇に乗っかって仕事が来ているだけで、あと3年もすれば広告主も本当の効果が分かってウェブに対して払うカネを低減するようになり、このバブルは終わる。

 さらに日本語のテキストサイトのPVはすでに頭打ちになっており淘汰が進む、という話もしました。英語のサイトであれば、全世界からのアクセスが見込めますが、マイナー言語たる日本語で書かれている以上、結局市場が日本人だけになってしまうのですよ。そして日本は少子高齢化で人口が減少していきます。多くの国民にスマホが行き渡り、スマホ中毒者まで誕生して、人間には1日24時間しかない以上、もはやこれから広告費用獲得の源泉であり根拠たるPVが増える状況は見込めません。

 某巨大サイトにしても、すでにPVはピークアウトしていることが明らかになっていますし、私自身もウェブニュースの仕事をこの12年間やっていて2011年ぐらいまでの「うひゃっ! 先月比3倍!」みたいなことは以後発生していないことをここに報告します。

 さて、インターネットが日本でも一般に普及し始めてから今年で25年。その間、常に「夢のツール」「世界が変わる」みたいな言い方をされ続けました。実際に市井の人々が情報を発信できるようになったことや、誰とも話すことなく、外出せずに商品をGETできるようになったことなど革命的なことは多数起こりました。

 しかし、変わっていない点は、企業の実権を握っている人々がウェブのことをまだよく分かっていないということなんですよ。「ワシはアナログ人間ですからな、ガハハ!」みたいな言い訳がまかり通り、権力者が「ウェブは任せた」と本質を知らぬまま他人にぶん投げる状況が今も変わっていない。

 こうした権力者があと3~5年もすれば一線から退き、ウェブメディアに広告を出すことの効果に疑問符が付き始めたところでようやく日本のインターネットは実態に即した発展を遂げると私は考えております。

 私自身もウェブのお蔭で生活が成り立つ人生を送っていますが、ウェブそのものはともかく、「日本のウェブ」の将来性には危機感を持って臨むべき状況にあることをここに宣言します。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんしゅうきつこ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2018年5月31日号掲載

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