SNSアイコン、LINEスタンプ… ネット時代の「見た目」考(古市憲寿)

社会 週刊新潮 2018年5月17日号掲載

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 新潮新書に、『人は見た目が9割』という大ベストセラーがあるが、実際には「見た目」不在のコミュニケーションをする機会も多い。古くは電話や手紙、最近はインターネットを介したやりとりである。

 しかし非対面コミュニケーションでは、通常とは違う意味で「見た目」が重要になる。たとえば、手紙では文字の上手さや便箋の選び方が「見た目」に相当する。それがわかっていたから、昔の人は頑張って字の練習をしたのだろう。

 今でもユーキャンの通信講座では、実用ボールペン字講座が根強い人気を誇っているという。実際、筆跡診断士という民間資格があるくらいだ。その人が書く文字と性格は一致しているはずだと信じる人が多くいるのだろう。

「見た目」が大事なのはインターネットの世界も同じだ。たとえばツイッターやインスタグラムでは、アイコンが事実上の「見た目」の役割を果たしている。もしもアイコン診断士なんて人がいれば「顔写真をアイコンにしている学者は自己愛の強い自信家が多く、論争ばかりしている」「ネット右翼にアニメアイコンが多いのは自分に自信がないから。日本やアニメ世界に同一化したいのでしょう」とか、それっぽい分析をしていそう(あくまでも架空の診断士の意見です)。

 さて、今日の本題はLINE。LINEでも吹き出しの隣に表示されるアイコンがあるが、これはさして重要ではない。古市調べでは、LINEで相手の印象を決定的に左右するのはスタンプである。スタンプは、アバターと同じ役割を果たす。つまりスタンプのキャラクターを、無意識のうちに使用者と重ね合わせてしまうのだ。

 たとえば北斗の拳のスタンプばかりを使う男性は「強い男」(裏を返せば「気の利かない男」)、カナヘイの小動物スタンプを使う男性は「かわいらしくて茶目っ気がある人」(場合によってはあざとい男)といった具合だ。

 ある男性編集者は、気持ち悪いスタンプばかりをギャグで使っていたのだが、イケメン執事のスタンプに変えた途端、急に作家からの好感度が上がったと喜んでいた。

 要はスタンプのキャラクターが、まるで使用者本人のように刷り込まれてしまうのだ。そんなバカなと思うかも知れないが、対面コミュニケーションで「人は見た目が9割」ならば、LINE上で同じことが起こっていてもおかしくない。

 なぜLINEの話を書いているかというと、「週刊新潮」がスタンプを作ってくれたからである。イラストはもちろんナカムラさん。意識高い系になれるスタンプとのコラボだ。生意気な社会学者が「要するに羨ましいんですね」や「今どき現金使っちゃう並みに頭が悪いなって」など、イラッとする発言をしている。

 スタンプショップで買えます。人の印象がLINEスタンプで決まる理論でいうと、他人を挑発したい人や炎上を経験したい人は購入必至のアイテムだろう。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目される。著書に『だから日本はズレている』『保育園義務教育化』など。