「サイン会ゼロ」のジョイマン、チケット完売で解散回避

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 解散回避で話題のあの“一発屋芸人”が、今から数年前、ある1枚の写真で世間を賑わせたことはご存じだろうか。

「お笑いコンビ・ジョイマンのサイン会が、客ゼロ」
 写真に写っているのはデパートのサイン会にジョイマンの2人のみ。
 いったい、何が起こったのか。

 その真相は、同じく“一発屋芸人”仲間である、髭男爵・山田ルイ53世の『一発屋芸人列伝』に詳しい。
 数々の一発屋芸人たちの悲喜こもごもを描き「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞を受賞した同書から、その内幕に迫ってみよう。(以下、『一発屋芸人列伝』から参照、引用。)

 ***

「ちゃんと言ったんですよ!」

 ジョイマンの“高木ではない方”、つまり池谷が経緯を語り始める。

 彼の述べる“ちゃんと言った”とは、

「イベンターの方に『僕達がサイン会やってもお客さん来ませんよ?』とお伝えしたんです!」

 との事前通告を指す。

 彼曰く、「保険を掛けた」らしいが、

「整理券50枚捌けてるんで大丈夫! 安心して下さい!」

 自信漲るイベンター氏の一言で、目論見は失敗。一ミリもハードルは下がることなく、サイン会は決行された。

 勿論、2人も本心では本当に客が来ないとは思っていなかった。50人の見込みが30人だったとしても気まずくならぬよう、予防線を張っただけである。

 しかし、蓋を開ければまさかのゼロ。

 誰も来なかった。『走れメロス』なら死人が出ている。

 芸人は話を多少“盛る”ものだが、彼らは本物。「5、6人しか来なかったけど、ゼロって言ってもいいか!」ではないのだ。

 添加物など一切ない、自然由来のオーガニックな“客ゼロ”である。

「関係者の方々に申し訳ないのは勿論、通りすがりの他のお客さんが『サイン会やってるんだ? サイン下さい!』と言ってくる。でも僕らは『整理券ない人はダメなんです、すいません』って謝んなきゃいけないのが一番の地獄で……サインしたかったんですよ、僕らは」

 幾度となく話してきた物語なのだろう。仕上がった漫談を披露する2人に、悲しみは無い。

 このツイッターでの高木の“ためいき”、もとい、つぶやきが大反響を呼び、

「花火大会の前座を務める営業で客ゼロ」

「ラジオの公開生放送で客ゼロ」

 立て続けに“客ゼロ”シリーズが投稿されることとなる。時と場所は変われども、一貫して変わらないのは、客が一人もいないということ。

(いや、どこに味をしめとんねん!)

 呆れる方もいるだろうが、実際、それだけの釣果はあった。

 この一連のネタで幾つかのテレビ番組からお呼びがかかり、“一発”後の苦しい停滞の時期に貴重なメディア露出を果たしたのである。当時僕も、客ゼロの話題を引っ提げ、「芸人報道」(日テレ)などに出演する彼らを拝見した。客ゼロネタは面白かったが、反面、僕は心配にもなった。

 お笑い芸人にとって、不幸は飯の種。とりわけ、一発屋芸人の場合、“自虐”は定番のネタである。

「一時は稼ぎましたけど、今は月収○○円なんですー!」

「暇で毎日家にいますー!」

 悲惨な体験をリサイクルし、笑いに変える、夢の再生可能エネルギー。これらはしかし、一時的に話題を集めはするが、最終的に損をすることが多い。

 謂わば、麻薬のようなもの。

 使えば使うほど惨めさが増し、やがて自虐が現実となる悪循環に陥る。

 ましてや彼らの場合、“客ゼロ”である。件の写真を見たイベント関係者が、

「こいつら集客力ないなー……」

 と考えるだろうことは、想像に難くない。結果、イベントのお誘いや、地方営業のオファーが減るのではなかろうか。一発屋と化し、仕事が減って苦しいのかもしれぬが、刹那的な露出のために身を削り過ぎてはいまいか。僕には彼らの行為が「自虐」というより「自殺」、その境界線ギリギリのチキンレースに思えたのである。

 しかし、杞憂であった。

「テレビ出演の効果で、『お客さんゼロの営業を見てみたい!』というお客さんが来るようになった!」

「客ゼロの営業が見たくて来たのに『いやちょっと客いるじゃん!』ってなって」

 もはや、量子力学の領域。

 観察という行為に及んだ途端、それが対象に影響を及ぼし、状態が変わってしまう……あれである。

 電通、博報堂顔負けの高度なマーケティング術にも思えるが、

「どん底の精神状態だったので、もう乗っかっちゃえばいいかって」

 2人にとっては、ただの、“一か八か”だったようだ。

「ブーム以降、ずーっと落ち続けてたけど、やっと地面に激突した」(高木)

「あれがターニングポイント。おかげでバイトを辞められた!」(池谷)

 晴れ晴れとした表情で、能天気に当時を振り返る2人の口調のせいか、まるでサクセスストーリーを聞かされているような錯覚を覚える。

 ともあれ、ジョイマンの2人は、これまで字面やエピソードトークだけで平面的だった自虐ネタの裾野を、ネットの世界にまで広げ、“立体的に自虐してみせた”新世代の一発屋芸人と言えるだろう。

新潮45 2018年5月15日掲載

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