「自分だけ父から暴行」「本当の弟たちは慶應に…」 新生児取り違え事件、被害者たちの苦しみ

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「一目会いたかった」

 13年には、墨田区の賛育会病院で1953年に取り違えられた男性が病院側に勝訴している。その後、本来の戸籍に入った大谷太郎さん(65)=仮名=に聞いた。

「11年10月、当時の兄から”探偵がきた。お前が病院で取り違えられた可能性があるらしい”と言われて。新手の詐欺かと思って警戒しましたが、探偵から何度も電話をもらうのでその探偵が連れてきた”弟”と会うと、一目見て間違いないと思いました。私は一緒に育った”兄弟”と体格が全然違いましたが、目の前の弟は私と体格がそっくりで、顔も似ている。DNA鑑定の結果は、大谷家の両親と親子である可能性がほぼ100%でした」

 大谷さんも、それまで違和感に縛られていた。

「2人の兄は両親に似ているのに、私は母に”あんたはだれに似たんだ”と言われる。私だけニキビができ、足の形も異なるなど、いろんな違いが見つかりました。一番嫌だったのはアパートの住人の視線。兄弟で私だけ似ていないからか、特に女性から悪意ある目で睨まれ、それがトラウマになって対人恐怖症になってしまいました。また、うちは貧乏でテレビもありませんでしたが、大谷家の弟たちは慶應大学を卒業しています。もしかしたら自分も……と、いまでも考えてしまいます。それでも真実を知ってよかった。いま、3人の弟たちと交流できるのも、真実を知ったからです」

 そして、順天堂にメッセージを送る。

「被害者の方々は、本当の親や兄弟に会わなければ絶対に後悔します。病院側がそういう機会を作ってあげるべきで、それが取り違えた病院の責任でしょう。私の場合、本当の両親は他界していましたが、弟たちから写真を見せられ、涙がこぼれました。生きているうちに一目会いたかった」

 数多(あまた)の切なる叫びを聞いても、順天堂は「平穏な生活」という建前の陰で生じているかもしれぬ悲劇から、目を逸らし続けるつもりか。

週刊新潮 2018年4月19日号掲載

特集「闇に葬られた『新生児取り違え事件』で急展開 被害者がすべてを告白した『順天堂大学』隠ぺいのカルテ」より

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