「石破茂」が吼えた! 「“安倍加憲案”は禍根を残す」

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抑止力は高まらない

 現行の憲法9条2項を条文通りに解釈すれば、日本は「軍隊」を持てないし「交戦権」もありません。その上で、自衛隊については「必要最小限度の装備しか持たないので、軍隊ではない」というロジックで通している。

 でも、陸上自衛隊は10式戦車を持っているし、航空自衛隊はF-15戦闘機を持っている。海上自衛隊には「いずも」などの大型ヘリコプター搭載護衛艦がある。一般の人からすればどうみても軍隊です。それらの装備も必要最小限だから軍隊ではないという論理は国民には理解しづらいでしょう。

 交戦権については、さらに難解な解釈が必要です。

 一般に交戦権とは「国が戦争を行う権利」と思われているかも知れませんが、そうではありません。国際法には「ハーグ陸戦法規」、「サンレモ・マニュアル」、「ジュネーブ四条約」など戦争をするための厳格なルールがあり、交戦権とはそれらのルールで認められた戦い方を指している。

 国際法上の交戦権に従えば無差別でない限り空爆も出来る一方で、交戦国の軍人を捕虜にしたら人道的に扱わなくてはなりません。しかし、自衛隊員は軍人ではないし、交戦権も持たない。いざ防衛出動して戦う時ですら、何が出来て何が出来ないのか、憲法上は不明確で、その都度論争になりかねない。

 安倍総裁は、憲法に自衛隊を明記さえすれば、9条と現実の矛盾を解消できると考えているのかも知れません。しかし実際には、そんなことをしても日本の抑止力は1ミリも向上しません。

 むしろ「軍隊も交戦権も持たないけど、自衛隊は持つ」という戦後続いてきた矛盾が、より明らかになってしまうだけです。しかも、国民投票を経て改憲すればアメリカからの「押し付け憲法」という言い訳すら使えなくなってしまう。そもそも自民党は、主権独立国家にふさわしい憲法を制定するために結党されました。交戦権すら制限されて、どこが主権独立国家なんですか。今、自民党がやろうとしていることは、戦後レジームからの脱却どころか、自らの手で戦後レジームを固定化することに等しい。

 本来、改憲するなら9条2項を変えるか削除しなければなりません。私がこう言うと執行部の人たちは、「石破さんは公明党を説得できるのか」と反論します。しかし、同じく改憲項目とされた「合区の解消」については公明党への配慮は言及されていません。

 憲法改正推進本部でも「石破さんの仰ることはその通りですが、それでは国民投票で2分の1が取れません」と言われましたけど、国民に説明する努力をどれだけしたのでしょうか。

 私は、きちんとした改憲をするためには5年かけても10年かけてもいいと思っています。そもそも政治家というのは、国民に説明するためにいるんですから。

 安倍総裁は、「今回の“加憲案”なら今までと何も変わりません」と言って国民を安心させようとしています。でも、私は逆に「何も変わらなくていいんですか」と聞きたい。何も変わらないのなら、どうしてそんなに急いで改憲する必要があるのか。

 それよりも、日本の防衛には喫緊の課題が山積みになっています。たとえば、尖閣諸島に漁民を装った武装民兵が上陸したら、現状ではまず警察権で対抗することになります。でも、国家主権が侵害されているときに警察権で対応するのはおかしいでしょう。そういう、「グレーゾーン事態」に関する規定はもちろん、人員や武器も現状で足りているのでしょうか。専守防衛というのは、相手が何でもありで攻めて来るのに防御しかできない、世界で最も難しい防衛戦略ですよ。憲法に自衛隊を明記するだけで現実の防衛力が高まることはありません。

「石破は総理の後ろから弾を撃っている」なんて言われますが、そうではない。憲法や安全保障を語っても票にも金にもなりません。逆に「あいつは戦争好きだ」なんて勘違いされて票が減るかもしれない。

 それでも、私は9条改正がしたくて国会議員をやっているようなものです。だから、安倍総裁の方向性が正しければ賛成するし、間違っていれば反対する。それだけのことです。

週刊新潮 2018年4月5日号掲載

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