インパクト大な“城田優”と“高良健吾”で花丸のWOWOWドラマ(TVふうーん録)

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 ドラマ制作の皆さんに告ぐ。最終話だけ出演するシークレットゲストって、どうかと思う。「海月姫」の滝藤賢一、「FINAL CUT」の山崎育三郎、「99・9」の榮倉奈々。もちろんそれにまんまと釣られる自分もいるし、登場する役者に罪はない。でも物語の結末を楽しませようという気概ではなく、話題作り至上主義という軽薄な魂胆は罪深い。中身で勝負しろや、と。

 最終話が心底気になる構造で、断トツよかったのがWOWOW「バイバイ、ブラックバード」だ。

 借金を返せずに拉致軟禁される主人公を高良健吾、高良の監視役で暴力的な大女を城田優が演じている。

 高良は借金返済のために、ある場所へ連れ去られる運命だが、その前に交際していた女性5人に別れを告げたいと城田に乞う。その「お別れ行脚(あんぎゃ)」で訪れる女性たちの部屋に、城田は土足で上がり込み、暴言を吐き散らし、勝手に冷蔵庫を漁(あさ)る。やりたい放題。現在彼女たちが抱えるトラブルや鬱屈をどうにかしてあげたいと願う高良に、仕方なく、でも案外面白がって付き合ってやる。別れの説得材料としては、高良は「城田と結婚する」ことになっている。

 高良は5股男で、しかもホラ吹き。一見クズだが断言はできない。人を傷つけたり貶(おとし)めるような嘘をつくのではなく、朗らかで無邪気なホラを吹くからだ。バファリンと同じ、高良の半分は優しさでできています。お人好しでちょっとバカ。城田に殴られ蹴られドヤされながらも、女性たちには誠意をもって接する誠意大将軍だ(懐かしいな、羽賀研二って生きてるのか?)。

 幼い頃母親が突然事故に遭い、帰ってこなかったというトラウマも抱えている。誠意と優しさとトラウマと。矛盾しとるが、決して憎めない。そんな優男を高良が口を尖らせながら好演。

 一方、城田。身長3メートル、体重200キロと嘯(うそぶ)くが、確かにデカい。幼少期から「怪獣女」「邪魔な箪笥(たんす)」「公害」「安全管理できない発電所(原発)」と言われ続け、かといって勉強で見返すほどの頭もなく、暴力で相手をねじ伏せるしかない悲しい人生を送ってきた女だ。

 自ら黒塗りした辞書を携帯し、論破したり、言い訳する相手をねじ伏せて脅迫する。この辞書もなんだか切ない。色気・可愛い・マナー・占い・霊感・真面目・コツコツなどは彼女の辞書にない。この手の言葉に頼るのをやめた城田の過去に、つい思いを寄せる。なんだかシンパシーを感じちゃうんだよ、大女に。

 この2人の珍道中は、5人の彼女との恋愛を振り返りつつ、別れを告げていき、第6話が最終話となる構造。高良の運命やいかに、城田の処遇もいかに、と視聴者をちゃんと物語に添わせて、惹きつける力があった。

 5人の彼女を演じる女優陣、そのエピソードに関わる俳優陣も手腕を発揮できる内容だし、観る側もじっくり堪能できた。特に第5話のパンの話がよかったな。

 重苦しい企業モノや裁判モノで、顔も頭も疲れる傾向の強いWOWOWドラマだが、これは別格。私の好み、どストライクだったよ。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2018年4月5日号掲載

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