ビットコインは「汚いカネ」――NEM580億流出事件で見えた「仮想通貨の終焉」

社会2018年3月13日掲載

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投資と投機の違い

 仮想通貨の高騰がバブルか否かを考える前に、「投資」と「投機」の違いをご存じだろうか。『広辞苑【第七版】』(岩波書店)では以下のようになる。

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[投資]
【1】利益を得る目的で、事業に資金を投下すること。出資。
【2】比喩的に、将来を見込んで金銭を投入すること。「息子に―する」
【3】元本の保全とそれに対する一定の利回りとを目的として証券(株券および債券)を購入すること。「―家」
【4】経済学で、一定期間における実物資本の増加分。資本形成。

[投機]
【1】禅宗で、師家(しけ)と弟子のはたらき(機)が一つになること。悟りを開くこと。
【2】(speculation)損失の危険を冒しながら大きな利益をねらってする行為。やま。
【3】市価の変動を予想して、その差益を得るために行う売買取引。

 基本は投資なら【1】と【3】で、投機なら【2】だ。投資は「元本の保全とそれに対する一定の利回りとを目的」とあるのに対し、投機は「損失の危険を冒しながら大きな利益」を狙っている。投資が安全策なら、投機はギャンブルということになる。

 最近、仮想通貨が話題だ。仮想通貨交換業者「コインチェック(Coincheck)」からのNEM(ネム)の巨額流出事件やら、ビットコイン(bitcoin)の急落やら、良くも悪くも世間を騒がせている。

 私たちが仮想通貨の値上がりを期待し、なけなしの小遣いをはたいたとして、その行為は投資なのだろうか、投機なのだろうか。投資のように「一定の利益」が見込めるものなのか、投機のように「損失の危険を冒しながら」に該当するのだろうか、という疑問が湧く。

ビットコインは終焉を迎える?

アフター・ビットコイン―仮想通貨とブロックチェーンの次なる覇者―』(新潮社)の著者・中島真志氏が、仮想通貨の“本質”について読者との質疑応答を行った。3月1日に紀伊國屋書店の大手町ビル店(東京都千代田区)で開かれたライブトークでのことだ。

 中島氏は1958年生まれ。一橋大学法学部を卒業し、日本銀行に入行。金融機構局、国際決済銀行(BIS)などを経て、現職は麗澤大学経済学部教授。決済システムの専門家として知られ、『アフター・ビットコイン』には、何と日銀時代に「電子現金」の研究に携わったとの秘話が明かされている。

 仮想通貨への資金投入は「投資なのか、投機なのか」という問題は、究極的には仮想通貨の高騰が「バブルなのか、本当の価値を示しているのか」という疑問に行き着く。

 イベントで中島氏はNEMの流出事件を中心に講演を行ったが、その後の質疑応答で仮想通貨の本質について見解を披露した。以下に紹介するが、質疑応答については若干の編集を行った。

質問者1 ご著書で「ビットコインは終わるかもしれないが、ブロックチェーン(分散型ネットワーク)技術はこれから活用される」とありました。その例として、中央銀行が電子通貨を発行する可能性をご紹介されておられます。

 ただ、ある種の人々は「政府とは無関係に自分たちで通貨を発行し、流通させることができる」ことに興奮したのであって、政府が電子通貨を手掛けてもサプライズ感に乏しいのではないでしょうか。

中島真志氏(以下、中島) 将来的に複数の中央銀行がブロックチェーンの技術を使ってデジタル通貨を発行するのは間違いないと思っています。ビットコインを開発した“サトシ・ナカモト”(編集部註:自称の氏名で、本名かは不明)が目指していた世界は、「誰からも管理されず、世界中に価値を送りたい」というものでした。

仮想通貨を「邪悪」と形容する人々

中島 そのために「中央管理型ではなく、分散型の金融システムを作りました」ということなんですが、「誰からも管理されず」とは結局のところ誰のことなのかと言うと、「政府や中央銀行から自由な通貨を目指しました」となるわけです。

 本にも書きましたが、過去2年間、ビットコインの95%は中国人が買ったものです。人民元に先安感が出て、ドルに替えたくても政府が厳しい資本規制を行っている。ならば元を資本規制の対象外であるビットコインにいったん替えて、さらにビットコインをドルに替えようと、中国人は大量のビットコインを買い付けたんです。

 まさに、サトシ・ナカモトが考えていたことが、中国で実現したということでしょう。つまり、中国政府の規制から逃れるために、中国人はビットコインを使ったんです。

 こういうニーズを満たす通貨ですから、誰が喜んで使うかといえば、高い匿名性を求める人々です。麻薬や銃器の密売人といった犯罪者や、マネーロンダリングや脱税を企図している人たちです。どうしてもイリーガルな取引での支払いに使われることが多いんですね。

 実際に様々な犯罪に使われています。となると、規制が必要だという話になります。実際、次回のG20ではグローバルな規制について話し合いが持たれることになっています。

 日本ではビットコインなどの仮想通貨のイメージが楽観的すぎると思います。バラ色の未来を象徴するような感じで、「これが世界を変える」、「未来の通貨になる」と考えて投資をしている方もいると思います。

 ところが海外の金融機関の人たちと話をすると、彼らは仮想通貨をもう少し「好ましくないもの」として見ていることに気づきます。彼らは「evil(邪悪な)」とか「vicious(ひどい、物騒な)」という単語で仮想通貨を形容し、その上で「金融のツールとして考えないほうがいい」と主張します。彼らは「ビットコインは終わった」と断言しますし、その一方で「ブロックチェーンは凄い」と評価するというわけです。

レバレッジの恐怖

質問者2 日本国内では仮想通貨交換業者がさらに増加し、申請待ちの業者も入れると、その数は130社にもなると言われていますが、これほど増加するとなると、何か問題は生じませんでしょうか?

中島 証券会社でも300社を切りました。仮想通貨の事業者が130社も必要なはずもなく、いずれは淘汰されていくと思います。コインチェック社ではCMを使った集客が功を奏し、ビジネスとして成功したわけですが、次の3、4番手が同じことをやっても、それだけの顧客を集められる保証はありません。

 仮想通貨の取引所が過当競争に陥ったとして、気になるのはレバレッジの問題です。直訳は「梃子(てこ)」ですが、金融用語としては「借入資本利用」と訳されることもあります。ある取引所でレバレッジが最大10倍と設定されていたら、自己資金が10万円でも、100万円分の取引からスタートさせることが可能になります。

 レバレッジはFX(外国為替証拠金取引)でおなじみですが、こちらは25倍の上限が定められており、さらに(上限を)10倍に下げようという動きもあります。ところが、仮想通貨の取引には上限規制がありません。それぞれの取引所が「最大25倍」とか「最大15倍」と設定しているに過ぎないのです。

 ちなみに、ビットフライヤー(bitFlyer)という最大手の仮想通貨事業者の取引を見ると、総取引の実に9割がレバレッジをかけた取引となっているんです。ビットコイン社のCMを見て投資を始めたような人々は「出川組」と呼ばれるそうですが、そういう人たちはいきなりレバレッジをかけた取引はしないはずです。1倍で取引を開始させたはずなんですが、それは全体の10%でしかない。自己資本の5倍とか10倍で取引をしている人が、全体の9割を占めている。

 仮想通貨は1000種類を超え、時価総額は11兆円とも言われています。この取引内容がビットフライヤー社の言う通りだとすると、9割はレバレッジがかかっています。自己資本との乖離を考えると、投資に失敗して大火傷を負った人もいるはずです。

 さらに今後、取引所が過当競争に陥った際、レバレッジの上限を拡大して顧客獲得を狙うような取引所が登場する可能性はあります。そして、仮想通貨の値が上がっている間には問題は生じませんが、いざ下落したとなると、自己資産では負担できないほどの損失を被ることもあります。これが最も懸念されることでしょうか。

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